農地の買主が農地法五条の許可申請手続に協力しない場合でも、売買代金が完済されているときは、特段の事情のない限り、売主は買主が右協力をしないことを理由に売買契約を解除することはできない。
売買代金を完済した農地の買主が農地法五条の許可申請手続に協力しない場合と売主の契約解除権
民法541条,農地法5条
判旨
宅地転用目的の農地売買において、買主が代金支払を完了している場合には、特段の事情がない限り、買主の許可申請手続への不協力を理由とする売主からの解除は認められない。
問題の所在(論点)
農地法上の許可を要する農地売買において、買主が代金全額を支払済みである場合、買主が許可申請手続に協力しないことを理由に売主は契約を解除できるか(債務不履行解除の可否)。
規範
農地法5条の許可を停止条件とする農地売買契約において、買主が協力義務(許可申請手続への協力)を履行しない場合であっても、買主が既に売買代金の支払を完了しているときは、特段の事情のない限り、売主は当該不協力を理由に契約を解除することはできない。
重要事実
宅地に転用することを目的とした農地の売買契約が締結された。買主は既に売買代金の全額を支払済みであったが、その後、農地法5条に基づく許可申請手続に必要な協力をしなかった。これに対し、売主は買主の協力義務違反(債務不履行)を理由として、当該売買契約を解除する旨を主張した。
事件番号: 平成13(受)94 / 裁判年月日: 平成13年10月26日 / 結論: 破棄自判
農地を農地以外のものにするために買い受けた者は,農地法5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても,特段の事情のない限り,代金を支払い農地の引渡しを受けた時に,所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。
あてはめ
本件では、買主は売主に対し売買代金の支払を既に完了している。農地法上の許可申請協力義務は、本来、売買契約の目的を達成するための付随的義務の性質を有するが、買主側が主要な義務である代金支払を完了している以上、もはや売主に実質的な不利益は生じていない。このような状況下での不協力は、契約の根幹を揺るがすような重大な不履行とは評価できず、特段の事情がない限り、解除を認めるべき正当な法的根拠に欠けるというべきである。
結論
売主による解除は認められない。買主が代金を完済している以上、許可申請への不協力を理由とする解除権の行使は否定される。
実務上の射程
農地売買における協力義務違反と解除の可否に関する判断枠組みを示す。代金完済という事実が解除権発生を阻止する決定的な要素となる点に射程がある。答案では、債務不履行解除(民法541条等)の要件検討において、当該義務が不履行により契約目的を達し得ないほどの重要なものか、または信義則上解除が制限されるべき状況かに留意して引用すべきである。
事件番号: 昭和51(オ)291 / 裁判年月日: 昭和51年12月2日 / 結論: 棄却
双務契約の当事者の一方が、相手方の債務と同時履行の関係にある自らの反対給付の提供をすることなしに、相手方の履行遅滞を理由としてした契約解除は、相手方の履行遅滞があれば催告を要することなく契約を解除しうる旨の特約がある場合においても、効力を生じない。
事件番号: 昭和39(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和42年4月6日 / 結論: 棄却
畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。
事件番号: 昭和39(オ)183 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 破棄差戻
一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れ…
事件番号: 昭和25(オ)69 / 裁判年月日: 昭和27年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法557条1項にいう「履行に着手」とは、債務の履行そのもの、または履行の一部をなすのに欠くことのできない前提行為を行うことを指し、山林の売買において目的物の実地引渡しがなされた場合はこれに該当する。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)との間で山林の売買契約が締結された。売買に際し…