双務契約の当事者の一方が、相手方の債務と同時履行の関係にある自らの反対給付の提供をすることなしに、相手方の履行遅滞を理由としてした契約解除は、相手方の履行遅滞があれば催告を要することなく契約を解除しうる旨の特約がある場合においても、効力を生じない。
無催告解除の特約がある場合に反対給付の提供をすることなく相手方の履行遅滞を理由としてした解除の効力
民法533条,民法541条
判旨
双務契約において、無催告解除の特約がある場合であっても、自己の反対給付の提供をせずに相手方の履行遅滞を理由としてなされた契約解除は無効である。
問題の所在(論点)
同時履行の関係にある双務契約において、無催告解除特約がある場合、自己の債務の履行の提供をすることなく、相手方の履行遅滞を理由として契約を解除することができるか。
規範
双務契約の当事者の一方が、相手方の履行遅滞を理由として契約解除を行うためには、たとえ「相手方の履行遅滞があれば催告を要することなく契約を解除しうる」旨の特約(無催告解除特約)が存在する場合であっても、相手方の債務と同時履行の関係にある自己の反対給付の提供をすることを要する。
重要事実
土地の売主Dの相続人ら(E及び上告人A)は、土地の買主との間で売買契約を締結していた。当該契約には、履行遅滞があれば催告なく解除できる旨の特約があった。売主側は、買主の残代金支払債務と同時履行の関係にある自己の所有権移転登記義務について履行の提供をしないまま、買主の代金支払遅滞を理由に本件売買契約を解除する意思表示を行った。
事件番号: 昭和25(オ)263 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買において、代金支払が登記手続に先行する特約があり、かつ不払の場合に無催告解除をなし得る旨の合意がある場合、約定期限までに履行場所で代金の提供がなければ、特約に基づく無催告解除は有効である。 第1 事案の概要:買主(上告人)は売主(訴外会社)との間で土地の売買契約を締結したが、手付金を支払…
あてはめ
本件における土地の売主側の所有権移転登記義務と、買主側の残代金支払債務は、同時履行の関係にある。無催告解除特約は、催告という手続を省略するにすぎず、同時履行の抗弁権を奪うものではない。したがって、売主側が自己の登記義務の履行の提供をしていない以上、買主の代金不払は履行遅滞とはならず、解除権は発生しない。ゆえに、提供なき解除の意思表示は効力を生じない。
結論
反対給付の提供をしないままなされた契約解除は効力を生じない。本件の土地売買契約の解除は無効である。
実務上の射程
同時履行の関係にある債務の解除を論じる際、特約の有無にかかわらず「履行の提供(民法492条等)」が解除の有効要件であることを示すために用いる。無催告解除特約がある事案でも、なお反対給付の提供が必要であることを強調する際に不可欠な判例である。
事件番号: 昭和31(オ)678 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続…
事件番号: 昭和39(オ)991 / 裁判年月日: 昭和41年6月17日 / 結論: 棄却
抵当権設定登記および同登記より順位の劣後する所有権移転請求権保全の仮登記がなされた不動産に対し、旧国税徴収法による滞納処分の例による公売処分がなされた場合には、右仮登記上の権利は消滅するものと解すべきである。
事件番号: 昭和51(オ)982 / 裁判年月日: 昭和51年12月20日 / 結論: 棄却
農地の買主が農地法五条の許可申請手続に協力しない場合でも、売買代金が完済されているときは、特段の事情のない限り、売主は買主が右協力をしないことを理由に売買契約を解除することはできない。
事件番号: 昭和25(オ)69 / 裁判年月日: 昭和27年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法557条1項にいう「履行に着手」とは、債務の履行そのもの、または履行の一部をなすのに欠くことのできない前提行為を行うことを指し、山林の売買において目的物の実地引渡しがなされた場合はこれに該当する。 第1 事案の概要:上告人(買主)と被上告人(売主)との間で山林の売買契約が締結された。売買に際し…