所有権移転請求権保全の仮登記の原因表示と実質上の権利関係との間に若干の相違があつても、当該仮登記は、特定不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害しないかぎり、有効である。
所有権移転請求権保全の仮登記の原因表示が実体法上の権利関係と相違する場合における当該仮登記の効力
不動産登記法2条
判旨
仮登記された権利関係と実質上の権利関係に相違があっても、特定不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記としての同一性を害しない限り、当該仮登記は有効である。
問題の所在(論点)
仮登記上の原因(売買予約)と実質上の原因(停止条件付売買)が異なる場合に、当該仮登記に順位保全の効力が認められるか。仮登記の同一性の判断基準が問題となる。
規範
所有権移転請求権保全の仮登記(不動産登記法旧2条2号、現105条2号等)は、本登記の順位を保全することを目的とするものであり、原因たる権利関係自体の公示を直接の目的とするものではない。したがって、仮登記の原因表示と実質上の権利関係に相違があっても、それが特定不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害しない限り、有効な順位保全効を有する。
重要事実
農地の売買において、知事の許可を条件とする停止条件付売買契約が締結された。しかし、当該農地になされた所有権移転請求権保全の仮登記には、その原因として「売買予約」と表示されていた。その後、この仮登記の原因表示と実質的な契約内容(停止条件付売買)との相違を理由に、仮登記の効力が争われた。
事件番号: 昭和40(オ)775 / 裁判年月日: 昭和41年5月6日 / 結論: 棄却
不動産登記法第二条第一号によつて仮登記をなすべき場合に、同条第二号の仮登記を申請し、該申請が受理されてすでに第二号の仮登記がなされた以上、これを無効と解すべきでなく、順位保全の効力を有するものと解すべきである。
あてはめ
本件において、被上告人と訴外Dとの間で実際に締結されたのは停止条件付売買契約であり、仮登記上の原因は売買予約であった。しかし、両者はともに「将来の所有権移転の順位を保全するためのもの」である点において共通している。特定の不動産について所有権移転請求権を保全するという目的において矛盾はなく、仮登記としての同一性を害するものとはいえない。したがって、表示された原因と実態に若干の相違があっても、既存の停止条件付売買契約について順位保全の効力を認めるのが相当である。
結論
本件仮登記は有効であり、原因表示と相違する既存の停止条件付売買契約につき順位保全の効力を有する。
実務上の射程
登記の「流用」や「原因の相違」が問題となる事案で広く参照される。仮登記においては原因の厳密な一致よりも「請求権保全の同一性」を重視する実務的な立場を確立した。答案上は、登記の公信力が否定される一方で、実体関係との一致がどの程度求められるかを論ずる際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1234 / 裁判年月日: 昭和44年12月19日 / 結論: 棄却
不動産の買主がその売主に対してなしたいわゆる処分禁止の仮処分がある場合に、右不動産の他の買主が同一不動産について第二次の処分禁止の仮処分をすることは妨げられないが、第一次仮処分の債権者が、被保全権利の実現として、右売買契約に基づく所有権移転登記を経由したときは、第二次仮処分の債権者は、自己の仮処分の効力を主張して右所有…
事件番号: 昭和55(オ)1140 / 裁判年月日: 昭和57年3月25日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の名義人は、登記上利害関係を有する第三者の承諾書等がないため、仮登記とは無関係に所有権移転登記を経由した場合であつても、特段の事情のない限り、仮登記義務者に対して仮登記の本登記手続を請求する権利を失わず、右仮登記の本登記を承諾すべき第三者の義務も消滅しない。
事件番号: 昭和40(オ)646 / 裁判年月日: 昭和41年9月16日 / 結論: 棄却
登記原因の記載が実質上の権利関係と喰い違つていても、当該仮登記が特定の不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害するものと認められない限り、更正登記手続を経るまでもなく、これを無効と解すべきではない。(昭和三七年七月六日第二小法廷判決、民集一六巻七号一四五二頁参照)