登記原因の記載が実質上の権利関係と喰い違つていても、当該仮登記が特定の不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害するものと認められない限り、更正登記手続を経るまでもなく、これを無効と解すべきではない。(昭和三七年七月六日第二小法廷判決、民集一六巻七号一四五二頁参照)
登記原因の記載が実質上の権利関係と喰い違う場合の仮登記の効力
不動産登記法2条2号,不動産登記法63条
判旨
所有権移転請求権保全の仮登記について、登記原因の記載と実体上の権利関係に不一致があっても、同一性を害しない限り無効とはならず、更正登記なしに本登記を請求できる。
問題の所在(論点)
不動産登記法上、仮登記の原因の記載と実体的な権利関係が合致しない場合に、当該仮登記は無効となるか。また、有効であるとしても、本登記を請求するために事前に更正登記を経る必要があるか。
規範
所有権移転請求権保全の仮登記は、本登記の順位保全を目的とするものであり、権利関係自体の公示を主目的とするものではない。したがって、仮登記された権利関係と実体上の権利関係との間に若干の相違があっても、当該仮登記が特定の不動産の所有権移転請求権を保全するためのものとして同一性を害しない限り、直ちに無効とはならない。また、この場合、更正登記を経ることなく、仮登記に基づき本登記手続を請求できる。
重要事実
本件建物の登記簿上、所有権移転請求権保全の仮登記の原因として「停止条件付代物弁済契約」と記載されていたが、実体上の権利関係は「代物弁済の予約」であった。仮登記権利者は、この不一致を是正する更正登記を経ることなく、仮登記義務者に対して本登記手続の履行を求めて提訴した。
事件番号: 昭和41(オ)855 / 裁判年月日: 昭和42年1月26日 / 結論: 棄却
売主甲の代理人乙と買主丙との間に売買契約が成立したとの主張に対し、甲の代理人丁が乙の仲介により丙との間に当該売買契約を成立させた事実を認定した点に弁論主義違反の違法はない。
あてはめ
本件において、登記上の原因は「停止条件付代物弁済契約」であり、実体は「代物弁済の予約」であったが、いずれも特定の不動産に関する所有権移転請求権を保全しようとする点において共通している。このような権利関係の相違は「若干の喰い違い」にすぎず、特定の不動産に関する所有権移転請求権を保全するという仮登記の同一性を害するものとは認められない。したがって、当該仮登記は有効なものとして順位保全効を有する。また、実体的な権利関係と登記面との不一致は、本登記請求権の行使を妨げるものではないため、あらかじめ更正登記を行う必要もないと解される。
結論
仮登記は有効であり、更正登記を経ることなく仮登記に基づき本登記手続を請求できる。
実務上の射程
仮登記の流用や原因の相違が問題となる場面で活用できる。仮登記の目的が「順位保全」にあることを強調し、実体との同一性が保たれている限り、登記原因の不正確さは効力に影響しないとする論理は、実務上、仮登記の有効性を広く認める根拠となる。ただし、「同一性を害しない」範囲に限定される点には留意が必要である。
事件番号: 昭和39(オ)1368 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。
事件番号: 昭和26(オ)646 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
仮装の売買契約に基き不動産の所有権移転登記を受けた者が、その後真実の売買契約によりその所有権を取得し、右登記が現在の実体的権利状態と合致するに至つたときは、その時以後、買主は右所有権の取得を第三者に対抗することができる。
事件番号: 昭和25(オ)246 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済予約に基づき債権者が所有権移転の仮登記をすることは、特約のない限り、不動産登記法上認められた適法な権利保全行為であり、債務者の金融を妨げる不当な行為には当たらない。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)は、債務者(上告人)所有の建物につき代物弁済の契約(予約)を締結した。債権者は、金銭債務…
事件番号: 昭和41(オ)749 / 裁判年月日: 昭和42年1月19日 / 結論: 棄却
所有権移転請求権保全の仮登記の原因表示と実質上の権利関係との間に若干の相違があつても、当該仮登記は、特定不動産の所有権移転請求権を保全するための仮登記として同一性を害しないかぎり、有効である。