甲が、不動産について、共同相続によつて持分しか取得しなかつたにもかかわらず、自己が単独相続したとして、その旨の所有権移転登記を経由したうえ、乙に右不動産を売り渡してその旨の登記をしたときは、甲は、乙及び乙からの転得者丙に対し、自己が取得した持分をこえる部分についての右所有権移転が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らして許されない。
所有権移転の無効を主張することが信義則に照らして許されないとされた事例
民法1条
判旨
共同相続人の一人が、法定相続分を超える持分を取得していないにもかかわらず、単独相続の登記を経由して不動産を第三者に売却した場合、当該相続人が自ら行った移転登記が無効であると主張して抹消登記手続を請求することは、信義則上許されない。
問題の所在(論点)
虚偽の単独相続登記を自ら行い、それに基づき不動産を売却した相続人が、後に当該登記の無効を主張して転得者に対し抹消登記を請求することは、信義則(民法1条2項)により制限されるか。
規範
自ら無権利の登記を履践し、これを正当なものとして信頼した第三者に対し、後日自らその無効を主張して登記の抹消を求めることは、信義則(民法1条2項)に照らし許されない。
重要事実
本件土地の共同相続人の一人である被上告人Bは、3分の1の持分しか取得していないにもかかわらず、自己の単独相続による所有権移転登記を経由した。Bはその後、本件土地を上告人A1に売り渡し、さらにA1からA2、A2からA3へと順次転売されて所有権移転登記がなされた。後にBは、自己の持分を超える部分の移転は無効であると主張して、各上告人に対し登記の抹消(更正)を請求した。
事件番号: 昭和56(オ)27 / 裁判年月日: 昭和56年9月29日 / 結論: 棄却
被告の単独所有名義を原告らと被告との共有名義に更正すべき旨の登記手続を命ずる判決主文においては、更正後の登記事項として、原告らの共有持分だけでなく、被告に帰属する共有持分をも明らかにすべきである。 (意見がある。)
あてはめ
Bは、実際には3分の1の持分しかないにもかかわらず、自ら単独相続の登記を経由し、これを前提としてA1に売却している。各上告人はこの登記を信頼して順次買い受けたものである。このような先行行為(登記および売却)を行いながら、後に自らその無効を主張して登記の抹消を求めることは、先行行為と矛盾する挙動であり、相手方の信頼を裏切るものといえる。したがって、かかる請求は信義則に照らして容認できない。
結論
Bによる抹消登記手続請求は、信義則上許されず、棄却されるべきである。
実務上の射程
権利者の一部による無断処分(他人の権利の処分)において、処分行為に自ら関与した者が、後に権利関係の不一致を理由に登記の公信力の欠如を突いて無効主張をする場面で、信義則(禁反言の法理)による遮断として援用する。
事件番号: 昭和33(オ)164 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同相続人の一人は、その持分に基づき、不動産の保存行為として、通謀虚偽表示によりなされた無効な所有権移転登記の抹消を単独で請求することができる。 第1 事案の概要:本件不動産の共同相続人の一人であるDは、上告人名義の所有権移転登記が存在することに対し、その原因たる贈与が通謀虚偽表示(仮装行為)であ…
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
事件番号: 平成16(オ)402 / 裁判年月日: 平成17年12月15日 / 結論: 破棄差戻
甲名義の不動産につき,甲から乙,乙からYが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,甲の相続につき共同相続人Xが存在するときは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,Xは,Yに対し,上記不動産の共有持分権に基づき,上記登記の全部抹消を求めることができる。