判旨
共同相続人の一人は、その持分に基づき、不動産の保存行為として、通謀虚偽表示によりなされた無効な所有権移転登記の抹消を単独で請求することができる。
問題の所在(論点)
共同相続人の一人が、共有不動産についてなされた無効な所有権移転登記に対し、保存行為として単独でその抹消を請求できるか。また、請求者に単独相続の登記があることは、当該請求の可否に影響するか。
規範
共有物に対する侵害がある場合、各共有者は、自己の持分権に基づき、共有物の保存行為(民法252条ただし書)として、単独で妨害排除請求をすることが可能である。この理は、不実の登記がなされている場合における抹消登記請求についても妥当する。
重要事実
本件不動産の共同相続人の一人であるDは、上告人名義の所有権移転登記が存在することに対し、その原因たる贈与が通謀虚偽表示(仮装行為)であり無効であると主張した。Dは、自身の持分に基づき、上告人に対して当該登記の抹消を求めた。なお、Dには単独相続の登記があったが、実際には共同相続の状態であった。
あてはめ
本件における贈与は通謀の上なされた仮装行為であり、無効である。したがって、上告人は本件不動産について何ら権利を有しない。この不実の登記は、共有者全員の所有権を侵害するものである。Dは共同相続人の一人として持分を有しており、共有物の現状を維持する「保存行為」として、第三者である上告人に対し、その無効な登記の抹消を求めることができる。Dに単独相続の登記があるとしても、実質的な持分権に基づく妨害排除請求である以上、請求は妨げられない。
結論
共同相続人の一人は、保存行為として単独で無効な登記の抹消を請求できる。したがって、Dの請求は認められ、上告人は抹消義務を負う。
実務上の射程
事件番号: 昭和29(オ)4 / 裁判年月日: 昭和31年5月10日 / 結論: 棄却
不動産共有者の一人はその持分権に基き、単独で当該不動産につき登記簿上所有名義を有する者に対しその登記の抹消を請求することができる。
共有物の保存行為として不実の登記の抹消を求める場面で頻出の規範。共有者全員が原告となる必要はなく、各共有者が単独で「全部」の抹消を請求できる点に実務上の意義がある。ただし、他の共有者に対する関係で自身の持分を主張する場面(持分権移転登記請求など)との区別に注意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和38年2月22日 / 結論: 棄却
一 甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。 二 右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。 三 …
事件番号: 昭和34(オ)960 / 裁判年月日: 昭和35年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の共有者は、保存行為として、共有不動産について無断でなされた不実の登記の抹消を単独で請求することができる。 第1 事案の概要:上告人らは、本件家屋が亡父Dの新築所有にかかり、その死亡により共同相続人である上告人ら両名の共有に属するものであると主張した。これに対し、被上告人B1は無断で自己名義…
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…
事件番号: 昭和56(オ)73 / 裁判年月日: 昭和56年10月30日 / 結論: その他
甲が、不動産について、共同相続によつて持分しか取得しなかつたにもかかわらず、自己が単独相続したとして、その旨の所有権移転登記を経由したうえ、乙に右不動産を売り渡してその旨の登記をしたときは、甲は、乙及び乙からの転得者丙に対し、自己が取得した持分をこえる部分についての右所有権移転が無効であると主張して、その抹消(更正)登…