一 甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。 二 右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。 三 右の場合、甲が乙丙に対し右登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、裁判所が乙丙に対し前記一部抹消(更正)登記手続を命ずる判決をしても、民訴法第一八六条に反しない。
一 共同相続と登記 二 共有持分に基づく登記抹消請求の許否 三 当事者が所有権取得登記の全部抹消を求めている場合に更正登記を命ずる判決をすることの可否
民法177条,民法898条,民法249条,不動産登記法63条,民訴法186条
判旨
共同相続人の一人が相続不動産につき単独所有権移転登記をした場合、他の共同相続人は、自己の持分を登記なくして第三取得者に対抗できるが、請求し得る登記手続は自己の持分に関する一部抹消(更正)登記に限られる。
問題の所在(論点)
共同相続人の一人が勝手に行った単独名義登記を信頼して取引した第三者に対し、他の共同相続人は登記なくして自己の持分を対抗できるか。また、その際の妨害排除請求として全部抹消登記を請求できるか。
規範
相続財産に属する不動産につき、一部の相続人が勝手に単独所有権移転登記をし、これを第三者に譲渡した場合、他の共同相続人は自己の持分につき「登記なくして」第三者に対抗できる。なぜなら、当該登記は他の相続人の持分に関する限り無権利の登記であり、不動産登記に公信力がない以上、第三者もその持分を取得し得ないからである。この場合、他の相続人が請求できるのは、登記を実体関係に合致させるための「自己の持分についてのみの一部抹消(更正)登記」である。全部抹消を請求することはできない。
重要事実
事件番号: 昭和36(オ)315 / 裁判年月日: 昭和39年1月30日 / 結論: その他
一 甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は乙丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。 二 右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない。
不動産の共同相続が発生し、相続人の一人であるDが、当該不動産につき勝手にD単独名義の所有権移転登記を経由した。その後、Dは被上告人らに対し、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を完了させた。これに対し、他の共同相続人である上告人らが、被上告人らに対し、共有権(持分9分の7)に基づく妨害排除請求として、当該仮登記の全部抹消登記手続を求めて提訴した。
あてはめ
Dによる単独名義登記は、上告人らの持分(9分の7)に関する限り無権利の登記である。登記に公信力がない以上、これを信じて仮登記を経由した被上告人らも上告人らの持分を取得することはできない。したがって、上告人らは登記なくして自己の持分を被上告人らに対抗できる。もっとも、Dの登記はD自身の持分(9分の2)の範囲では実体関係に合致しており有効である。上告人らは自己の持分についてのみ妨害排除請求権を有するに過ぎないため、全部抹消ではなく、9分の7の持分についての更正登記(一部抹消)のみを請求できる。
結論
上告人らは、自己の持分(9分の7)の範囲においてのみ更正登記手続を請求でき、全部抹消請求は認められない。
実務上の射程
相続と対抗問題(民法177条)に関する最重要判例の一つ。共同相続人間で一人が勝手に処分した「持分」については177条の「第三者」関係に立たず、登記不要で対抗できることを示した。答案上は、全部抹消請求が「不可」である点に注意し、更正登記を求めるべき文脈で引用する。
事件番号: 昭和37(オ)396 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
第一審判決主文に民訴法第一九四条にいう明白な誤謬がある場合、控訴裁判所が控訴棄却の判決をするにあたり判決の理由中に理由を示し主文において右誤謬を更正しても違法ではない。
事件番号: 昭和29(オ)4 / 裁判年月日: 昭和31年5月10日 / 結論: 棄却
不動産共有者の一人はその持分権に基き、単独で当該不動産につき登記簿上所有名義を有する者に対しその登記の抹消を請求することができる。