農地の受贈者の贈与者に対して有する知事に対する所有権移転許可申請協力請求権は、民法一六七条一項所定の債権にあたる。
農地の受贈者の贈与者に対して有する知事に対する所有権移転許可申請協力請求権と消滅時効
民法167条1項,農地法3条
判旨
農地の受贈者が贈与者に対して有する知事への所有権移転許可申請協力請求権は、民法167条1項(改正前)の「債権」に該当し、贈与契約成立時から10年の経過により消滅時効にかかる。
問題の所在(論点)
農地法上の許可を停止条件とする農地贈与において、受贈者が取得する「許可申請協力請求権」が消滅時効の対象となるか、またその期間は何年か(旧民法167条1項の適用有無)。
規範
農地法上の許可を必要とする農地の贈与において、受贈者が贈与者に対して有する「許可申請手続への協力請求権」は、独立した金銭債権等と同様に消滅時効(旧民法167条1項)の対象となる。その消滅時効の起算点は、原則として権利を行使することが可能となる贈与契約成立時である。
重要事実
上告人(受贈者)は、相手方(贈与者)との間で農地の贈与契約を締結した。農地の所有権移転には農地法上の知事による許可が必要であったが、上告人が許可申請手続への協力を求めたところ、相手方は契約成立から10年以上が経過しているとして、当該協力請求権の消滅時効を援用した。
事件番号: 昭和49(オ)1164 / 裁判年月日: 昭和50年4月11日 / 結論: 棄却
農地の買主が売主に対して有する知事に対する農地所有権移転許可申請協力請求権は、民法一六七条一項所定の債権にあたる。
あてはめ
農地の所有権移転自体は許可によって効力を生ずるものであるが、その前提となる許可申請協力請求権は契約に基づき発生する具体的な請求権である。本件請求権は性質上、旧民法167条1項にいう「債権」にあたると解される。したがって、契約成立時から権利行使が可能である以上、特段の事情がない限り、同条所定の10年の経過により時効消滅の完成を認めるのが相当である。
結論
許可申請協力請求権は10年の消滅時効にかかるため、契約成立から10年が経過した本件においては、時効の援用により権利は消滅する。
実務上の射程
農地法3条の許可を要する事案において、条件成就(許可)前の段階であっても協力請求権という形で時効が進行することを明示した判例である。現行法下(令和2年改正後)では、権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年のいずれか早い方で時効にかかることになるが、協力請求権が消滅時効の対象であるという法理自体は維持される。
事件番号: 昭和50(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和51年5月25日 / 結論: 棄却
家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権…
事件番号: 昭和35(オ)87 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法5条の許可を停止条件とする土地売買契約において、当該許可が得られた場合には、停止条件が成就したものとして土地の所有権移転の効力が発生する。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、上告人(売主)から本件土地を宅地として使用する目的で、農地法5条による知事の許可を停止条件として買い受ける契約を締…
事件番号: 昭和30(オ)657 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の贈与について都道府県知事の許可が得られていない場合であっても、当該許可を停止条件とする贈与契約は有効に成立する。 第1 事案の概要:上告人は、本件農地を贈与する旨の契約を締結したが、都道府県知事の許可が得られていないことを理由に、贈与契約は無効であり、許可申請手続を履行する義務もないと主張し…
事件番号: 昭和36(オ)1228 / 裁判年月日: 昭和37年4月26日 / 結論: 棄却
県知事に対する農地所有権移転許可申請書に、譲渡人、譲渡人と表示して各記名捺印がなされ、「権利を移転しようとする事由の詳細」の項に本件農地を贈与することにした旨、「権利を移転しようとする契約の内容」の項に無償贈与とする旨の各記載がある以上、該申請書は民法第五五〇条の書面に当る。