農地の買主が売主に対して有する知事に対する農地所有権移転許可申請協力請求権は、民法一六七条一項所定の債権にあたる。
農地の買主が売主に対して有する知事に対する所有権移転許可申請協力請求権と消滅時効
民法167条1項,農地法3条
判旨
農地の売買契約に基づく許可申請協力請求権は、物権的請求権ではなく債権的請求権であり、消滅時効の対象となる。同請求権は、売買契約成立の日から10年を経過したときは時効により消滅する。
問題の所在(論点)
農地売買における知事の許可申請協力請求権の法的性質が、債権的請求権として消滅時効の対象になるか、あるいは物権的ないし特殊な請求権として時効にかからないかが問題となる。
規範
農地法上の許可を停止条件とする農地の売買契約において、売主が負う許可申請協力義務、および買主が有する「許可申請協力請求権」は、許可により初めて移転する農地所有権に基づく物権的請求権ではなく、また登記請求権に随伴する権利でもない。これは売買契約そのものから生じる債権的請求権(民法167条1項 ※現166条1項)に該当する。
重要事実
上告人(買主)と被上告人(売主)は、昭和24年9月6日に農地の売買契約を締結した。しかし、農地法(当時は自作農創設特別措置法等に関連)に基づく知事の許可を得ないまま長期間が経過した。契約成立から10年以上が経過した後、買主が売主に対し、所有権移転の効力を発生させるための許可申請への協力を求めたところ、売主側から消滅時効の援用がなされた。
あてはめ
本件における許可申請協力請求権は、農地所有権が移転する前の段階で認められるものである。したがって、いまだ発生していない物権に基づく請求権とはいえず、契約という合意から生じた純然たる債権的請求権と解される。本件売買契約は昭和24年9月6日に成立しており、特段の事情がない限り、同日から権利を行使することが可能であったといえる。そのため、請求権発生から10年が経過した時点において、消滅時効が完成したと判断される。
結論
許可申請協力請求権は債権的請求権であり、契約成立から10年の経過により消滅時効が完成する。本件請求権は時効により消滅しているため、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
農地売買の有効要件(許可)が具備される前の「予約的」な権利関係について、その債権的性質を明確にしたものである。答案上は、農地の二重譲渡や登記請求権の可否を論じる際、前提となる「協力義務」の存否や時効を検討する場面で活用する。時効の起算点については、原則として契約成立時とする実務上の指針となっている。
事件番号: 昭和56(オ)575 / 裁判年月日: 昭和56年10月1日 / 結論: 棄却
農地の受贈者の贈与者に対して有する知事に対する所有権移転許可申請協力請求権は、民法一六七条一項所定の債権にあたる。
事件番号: 昭和39(オ)614 / 裁判年月日: 昭和40年7月6日 / 結論: 棄却
農地の売買契約を締結する場合には、知事の許可を停止条件とする旨の付款を要するものではなく、右のような条件を付していないからといつて、直ちにその売買契約が無効なものと確定するわけのものではない。
事件番号: 昭和51(オ)727 / 裁判年月日: 昭和51年11月5日 / 結論: 棄却
不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によつて生じた所有権移転の事実が存する限り独立して消滅時効にかからない。
事件番号: 昭和49(オ)398 / 裁判年月日: 昭和50年9月25日 / 結論: 棄却
時効による農地所有権の取得については、農地法三条の適用はない。