合名会社を退社した社員の会社に対する持分払戻請求訴訟については、商法七九条は、適用されない。
合名会社を退社した社員の会社に対する持分払戻請求訴訟と商法七九条の適用の有無
商法79条
判旨
持分会社の退社社員による持分払戻請求訴訟は、会社と「社員」の間の訴えには当たらず、旧商法79条(現在の持分会社に関する規定も同様)の適用はない。したがって、同条に基づく代表者の選定は無効であり、代表権のない者に対する訴訟手続には法令違背がある。
問題の所在(論点)
退社した社員による持分払戻請求訴訟において、旧商法79条(会社と社員間の訴訟における代表者の特則)を適用し、社員の互選により代表者を定めることができるか。すなわち、元社員による請求が「社員が会社に対し訴を提起する場合」に含まれるかが問題となる。
規範
持分会社の「社員が会社に対し訴を提起する場合」に関する代表者の特則(旧商法79条)は、会社と社員の利益相反を防止する趣旨である。持分払戻請求権は、社員たる資格から生じる権利ではあるが、社員たる地位を去った者が初めて取得する権利であるため、当該請求に関する訴訟は「社員」が提起する訴えには該当せず、特則の適用を受けない。
重要事実
合名会社を退社した元社員B1らが、会社に対し持分の払い戻しを求めて提訴した。会社側は、旧商法79条に基づき、他の社員の過半数の決議により社員Eを本件訴訟の代表者として定めた。一審および二審は、このEを代表者として訴訟手続を進め、被上告人らの請求を一部認容した。これに対し会社側が、代表権のない者に対してなされた訴訟手続の違法を理由に上告した。
事件番号: 昭和58(オ)1562 / 裁判年月日: 昭和62年1月22日 / 結論: 棄却
合資会社の社員の金銭出資義務の履行期につき定款又は総社員の同意による定めがない場合において、出資義務の履行請求前に社員が退社したときは、右社員の会社に対する持分払戻請求権は成立しない。
あてはめ
被上告人らの持分払戻請求は、会社を退社したことに基づく権利行使である。本件請求権は社員の地位を喪失した後に発生するものであり、訴えの提起時点では既に社員ではない。よって、本件は旧商法79条が規定する「社員が会社に対し訴を提起する場合」には当たらない。したがって、同条により選定されたEには会社を代表すべき資格がなく、Eやその訴訟代理人を関与させて行われた一審・二審の手続は、代表権の欠缺という重大な法令違背があるといえる。
結論
持分払戻請求訴訟に旧商法79条は適用されず、Eには代表権がない。裁判所は補正を命じるか特別代理人を選任すべきであり、これを怠った原判決を破棄し、第一審に差し戻す。
実務上の射程
持分会社の代表権(会社法599条等)や訴訟代表に関する論点で活用できる。特に「退社社員」が会社法上の「社員」に含まれないことを明示した射程の明確な判例であり、利益相反防止のための特則の適用範囲を厳格に画定する際に参照すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)1348 / 裁判年月日: 昭和43年4月16日 / 結論: 棄却
訴訟当事者である法人の代表者の代表権が消滅した場合において、旧代表者から委任を受けた訴訟代理人があるときは、右代表権消滅の事実が相手方に通知されていなくても、判決に新代表者を表示することは許される。