一 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の脱退組合員に対する払戻持分の計算のため組合財産を評価するにあたり、将来退職する組合役員・従業員に支払われるべき退職慰労金・退職金につき当期末現在の状態を基準として算出したその相当額を負債として計上することはできない。 二 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の理事会の全員の協議によつて右組合の経理業務を担当するものとされた理事にその事務処理について故意又は過失に基づく非違があつたときは、右理事は、業務担当理事として負担すべき善良な管理者の注意義務ないし忠実義務に違反するものとして、組合に対し、同法三八条の二第一項所定の損害賠償責任を負担するものと解すべきである。
一 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の脱退組合員に対する払戻持分の計算のための組合財産の評価に当たり将来退職する組合役員・従業員に支払われるべき退職慰労金・退職金につき当期末現在で算出したその相当額を負債として計上することの可否 二 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の理事全員の協議により組合の経理業務を担当することとされた理事の事務処理に非違があつた場合と同法三八条の二第一項所定の損害賠償責任
中小企業等協同組合法20条,中小企業等協同組合法38条の2第1項,中小企業等協同組合法42条,商法254条3項,商法254条の2,民法644条
判旨
理事会における利益相反取引の承認決議に、特別利害関係を有する理事が加わっていたとしても、その理事の議決を除外した上で決議の成立に必要な多数が存在する場合には、当該決議は有効である。
問題の所在(論点)
1. 脱退時の持分払戻計算において、将来発生し得る退職慰労金や清算所得税等を負債として計上できるか。 2. 特別利害関係を有する理事が加わってなされた理事会決議の効力。 3. 理事が個人として組合と取引を行う場合に、理事としての善管注意義務違反を問い得るか。
規範
1. 組合員脱退時の持分払戻計算における財産評価は、事業継続を前提とした一括譲渡価額を基準とすべきであり、将来の変動が予想される退職慰労金や清算所得に対する公租公課を負債計上することはできない。 2. 利益相反取引の理事会承認について、特別利害関係を有する理事は議決権を行使できないが、出席して意見を述べる権限は有する。また、当該理事が議決に加わった場合でも、その議決を除外しても決議成立に必要な多数が存するならば、決議は有効である。 3. 理事が個人として組合と取引を行う場合であっても、当該理事が組合の特定の業務(経理等)を担当しているならば、その取引に関連する事務処理につき、業務担当理事としての善管注意義務・忠実義務違反による損害賠償責任を負い得る。
重要事実
組合員であるB1らは、上告組合から脱退したとして持分払戻を請求した。組合側は、(1)払戻額の算定において、将来の退職慰労金や解散時の公租公課を負債として差し引くべきであると主張。また、(2)B1への未払運賃債務について、B1が特別利害関係人として理事会決議に加わったため承認は無効であると主張。さらに(3)B1は経理担当理事でありながら不当な運賃を請求しており、善管注意義務違反による損害賠償債権が発生しているため、これと払戻債権を相殺すると主張した。
あてはめ
1. 持分払戻は事業継続を前提とするため、計数上確定できない将来の退職金や、解散を前提とする清算所得税の計上は否定される。 2. B1は運送契約につき特別利害関係人であるが、B1の議決を除外してもなお有効な決議が成立しているといえるため、理事会承認は有効である。 3. 原審はB1の行為を「運送業者」としての行為に限定して評価したが、B1が経理業務担当理事であったならば、その取引継続中であっても業務担当理事としての注意義務を負う。不当な運賃請求等がなされたのであれば、忠実義務違反等の検討が必要である。
結論
1. 払戻計算に関する上告は棄却。2. 理事会承認の有効性に関する判断は維持。3. B1の任務懈怠による損害賠償債権の成否につき、審理不尽があるとして本件を差し戻す。
実務上の射程
会社法369条2項(特別利害関係人の議決権制限)の解釈において、標準的な判例として引用される。決議の効力が「当然に無効」ではなく「除外してもなお多数」であれば有効とする『消去法』の論理を答案で活用できる。また、役員の個人取引における任務懈怠責任の重畳的発生についても実務上重要である。
事件番号: 昭和57(オ)32 / 裁判年月日: 昭和58年4月7日 / 結論: 棄却
農業協同組合が、理事との間で締結した消費貸借契約を有効なものとして扱い、右契約に基づく理事の債務の担保として提供された第三者の組合に対する預金をもつて右債務の弁済に充当した場合には、担保の提供者である第三者は、右消費貸借契約が農業協同組合法三三条に違反することを理由としてその無効を主張することはできない。