甲市が貸ビル業者である乙所有の丙土地を道路用地として買収するにあたり、その代替地として丁土地を乙に売り渡し、あわせて甲と乙との間で、これに隣接する戊土地につき、丙土地上のビルを撤去し丁土地上にaビルを建築するまでの間、旧ビルの入居者を収容するための仮事務所として使用する目的で賃貸借契約を締結するとともに、期間の定めのない売買予約を締結したが、その後、乙において丁土地上にaビルを建築する工事に着手しないまま数年間が推移するうち、戊土地が新幹線の用地として国鉄に買収されるという、当事者双方の責に帰することができず、しかもその予想を超えた事態を生じ、戊土地の時価が予約締結時に定められた代金額の六倍弱になつたという事情のもとで、乙が国鉄のための土地収用法による収用裁決前に右売買予約の完結権を行使して本契約を成立させ、乙が収用裁決による損失補償金を取得することになつたとしても、右売買予約が戊土地の所在位置からして甲においてこれを所有していても利用価値が低下することが予想されたため、乙に買い取つてもらうのを最良の策として、甲から乙に買取方を要望した結果成立したものであること、甲と乙とは、戊土地が新幹線の用地となることが公表される直前に、いつたん期間満了となつていた戊土地の賃貸借契約を重ねて締結したが、その際、売買予約の内容に変更を加え、又は予約を失効させるなどの措置を講ずることがなかつたこと等、原判示の事情のもとにおいては、他に特段の事情のない限り、乙のした右予約完結権の行使が信義則に反して許されないと解することはできない。
土地の売買予約の成立後当事者双方が予想せずその責に帰することのできない事情により価額が高騰したのちにされた予約完結権の行使が信義則に反しないとされた事例
民法1条2項,民法556条
判旨
売買予約完結権の行使が信義則に反するか否かは、予約締結の経緯、目的の不達、土地価額の高騰等の諸事情を総合考慮すべきであり、土地価額が約6倍に高騰し目的外の利益を得る結果となる場合でも、直ちに信義則違反とはならない。
問題の所在(論点)
社会情勢の変化により当初の利用目的が実現不能となり、かつ対象物件の価額が予約時より大幅に高騰した場合において、予約完結権を行使することが信義則(民法1条2項)に反するか。
規範
売買予約完結権の行使が信義則(民法1条2項)に反して許されないと解するためには、予約締結の主たる動機や経緯、当事者の承諾の有無、価額変動の程度等を総合的に考慮し、契約の拘束力を維持することが著しく衡平を欠くといえる特段の事情が必要である。単に土地価額が騰貴し、予約当時の目的と異なる利用を余儀なくされたとしても、直ちに権利行使が制限されるものではない。
事件番号: 昭和36(オ)11 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭の価値が経済的情勢の変化により相対的に増大したとしても、債務者が履行を怠った金額自体の価値も同様に増大している以上、当該債務不履行に基づく契約解除は信義則に反しない。 第1 事案の概要:上告人(債務者)は、相手方との契約において金2,943円の支払債務を負っていたが、その履行を怠った。当時、金…
重要事実
上告人と被上告人(地方公共団体)は、本件土地が将来「aビル」の裏地となり利用価値が低下することを避けるため、被上告人の要望により売買予約を締結した。その後、ビル建築が遅延していたところ、本件土地が新幹線用地に決定し、当初予定したビル一体利用という目的は実現不能となった。さらに、土地価額は予約当時の約6倍に高騰し、上告人が予約完結権を行使すれば多額の損失補償金(利得)を得る状況となった。原審はこれを信義則違反として完結権行使を否定したため、上告人が上告した。
あてはめ
第一に、本件予約は被上告人が将来の利用価値低下を回避するために上告人に買取りを要望した経緯があり、特定の利用目的の不達を過大視すべきではない。第二に、被上告人は建築遅延を知りながら賃貸借契約を更新しており、予約の効力を制限する措置も講じていない。第三に、土地価額が予約時の6倍弱に達し、上告人が思わぬ利益を得る結果となるとしても、確定した事実関係のもとでは予約自体の効力を失わせるほどの格差とはいえない。以上より、信義則に反するとすべき特段の事情は認められない。
結論
本件売買予約完結権の行使は信義則に反せず有効である。したがって、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
事情変更の法理や信義則による契約の拘束力排除を主張する場面での反論として有用である。特に、一方当事者の要望による契約締結経緯や、相手方の黙認、数倍程度の価格変動といった事実がある場合に、契約の有効性を維持する側の論拠として射程を持つ。
事件番号: 昭和42(オ)1436 / 裁判年月日: 昭和44年3月28日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和56(オ)292 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 棄却
一 売買契約に基づいて開始される占有は、残代金が約定期限までに支払われないときは当該売買契約は当然に解除されたものとする旨の解除条件が付されている場合であつても、自主占有であるというを妨げない。 二 売買契約に基づいて開始された自主占有は、当該売買契約が解除条件(残代金を約定期限までに支払わないときは契約は当然に解除さ…
事件番号: 昭和29(オ)854 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
昭和一六年一一月中に締結された代物弁済の予約について、債権者のなした予約完結の意思表示が、右予約成立後、物価の高騰した昭和二二年一〇月中になされた場合であつても、原審認定の事実関係(原判決参照)の下においては、右予約完結の意思表示は信義公平に反するものとは認められない。
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…