一 売買契約に基づいて開始される占有は、残代金が約定期限までに支払われないときは当該売買契約は当然に解除されたものとする旨の解除条件が付されている場合であつても、自主占有であるというを妨げない。 二 売買契約に基づいて開始された自主占有は、当該売買契約が解除条件(残代金を約定期限までに支払わないときは契約は当然に解除されたものとする旨)の成就により失効しても、それだけでは、他主占有に変わるものではないと解すべきである。
一 解除条件付売買契約に基づいて開始される占有と自主占有 二 解除条件付売買契約に基づいて開始される自主占有の条件成就による他主占有への変更の有無
民法127条2項,民法162条,民法186条
判旨
売買契約に代金不払による解除条件が付されている場合でも、それにより開始された占有は所有の意思を妨げられず、条件成就により契約が失効しても直ちに他主占有に転換するものではない。
問題の所在(論点)
解除条件付売買契約に基づいて開始された占有に「所有の意思」が認められるか。また、解除条件が成就して契約が失効した場合、占有の性質は当然に他主占有へ転換するか。
規範
民法162条にいう「所有の意思」(自主占有)の有無は、占有取得の原因たる権原の性質により客観的に定められる。売買契約は性質上所有の意思に基づく占有を開始させる権原であり、当該契約に解除条件が付されていても、その性質を失わない。また、解除条件の成就という事後的な事情のみによって、当然に占有の性質が他主占有へ変更されることもない。
重要事実
占有者は売買契約に基づき対象物件の占有を開始したが、当該契約には「残代金を約定期限までに支払わないときは契約は当然に解除されたものとする」旨の解除条件(失効条項)が付されていた。その後、実際に代金の支払がなされず解除条件が成就し、売買契約は失効した。この状況下で、占有継続による取得時効の成否(所有の意思の有無)が争われた。
事件番号: 昭和57(オ)548 / 裁判年月日: 昭和58年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法一八六条一項の所有の意思の推定は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有してい…
あてはめ
本件における占有開始の権原は売買契約であり、買主として物件を支配する客観的性質を有する。解除条件が付されていることは、代金支払義務という債務の履行を促す性質を持つにすぎず、所有者として占有する意思を否定する根拠にはならない。また、条件成就により契約が遡及的に、または将来に向かって失効したとしても、占有者がそれによって直ちに「他人の所有物として占有する」意思に切り替わるわけではない。したがって、特段の事情がない限り、占有開始時および契約失効後も所有の意思は継続していると評価される。
結論
売買契約に解除条件が付されていても、所有の意思をもってする占有であることを妨げず、条件成就後も当然にはその性質を失わないため、取得時効は成立し得る。
実務上の射程
取得時効における自主占有の判断において、契約の効力(有効・無効・解除)と占有の性質を切り離して考えるべきことを示した。答案上では、権原の性質を判断する際に、付随的な失効条項の存在が自主占有を直ちに否定しない根拠として引用できる。また、他主占有への転換には「新権原」または「表示」が必要であり、契約失効という外部的事由のみでは足りないとする議論の補強に使える。
事件番号: 昭和34(オ)425 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権の取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有取得の原因となった権原の性質により客観的に決定される。他人の留守番として土地を使用する権原は、その性質上、所有の意思を認め得ない他主占有にあたる。 第1 事案の概要:占有者Dは、被上告人から本件土地の「留守番」として使用することを許され、これ…
事件番号: 昭和54(オ)332 / 裁判年月日: 昭和56年6月16日 / 結論: 破棄差戻
甲市が貸ビル業者である乙所有の丙土地を道路用地として買収するにあたり、その代替地として丁土地を乙に売り渡し、あわせて甲と乙との間で、これに隣接する戊土地につき、丙土地上のビルを撤去し丁土地上にaビルを建築するまでの間、旧ビルの入居者を収容するための仮事務所として使用する目的で賃貸借契約を締結するとともに、期間の定めのな…
事件番号: 昭和33(オ)76 / 裁判年月日: 昭和35年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において残代金の支払期日を徒過した際に「当然に契約解除となる」旨の約款が存在する場合であっても、特段の事情がない限り、直ちに無催告で解除の効果が発生するものではないと解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件では、売買契約の当事者間で残代金の支払期日が定められ、当該期日を徒過した場合に…
事件番号: 昭和40(オ)353 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 破棄差戻
不動産を買い受け所有権に基づいてこれを占有する買主は、売主との関係においても、自己の占有を理由として右不動産につき時効による所有権の取得を主張することができる。