造船の請負契約によつて建造された船舶に存する瑕疵が比較的軽微であるが、その修補に著しく過分の費用を要するなど原判示の事実関係のもとにおいては、注文者は、請負人に対し、右修補に代えて、右修補に要する改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできない。
造船の請負契約による建造船舶に比較的軽微な瑕疵があるがその修補に著しく過分の費用を要する場合において右修補に代えて改造工事費及び滞船料相当の金員につき損害賠償請求をすることが許されないとされた事例
民法634条1項但書,民法634条2項
判旨
請負の目的物に瑕疵がある場合において、その瑕疵が重要でなく、かつ、その修補に過分の費用を要するときは、注文者は瑕疵の修補に代わる損害賠償を請求することはできない。
問題の所在(論点)
請負契約において、目的物の瑕疵が重要でなく、かつその修補に過分の費用を要する場合に、注文者は瑕疵の修補に代わる損害賠償(修補費用相当額)を請求することができるか。民法634条1項但書の制限が修補に代わる損害賠償請求にも及ぶかどうかが問題となる。
規範
民法634条1項但書(現行法559条・562条1項但書、及び634条等の改正後の構成)の趣旨に照らせば、目的物の瑕疵が重要ではなく、かつ、その修補に著しく過分の費用を要する場合には、注文者は瑕疵の修補を請求し得ない。このとき、修補に代わる損害賠償請求(旧民法634条2項)についても、修補請求が認められない以上、修補に要する費用相当額を損害として請求することは認められない。
重要事実
上告人(注文者)は、被上告人(請負人)に対し本件曳船の建造を請け負わせたが、完成した曳船には瑕疵が存在した。上告人は、当該瑕疵の修補に代わる損害賠償として、改造工事費および滞船料相当の金員を請求した。しかし、当該瑕疵は比較的軽微なものであったのに対し、その修補には著しく過分の費用を要する事案であった。
事件番号: 昭和53(オ)924 / 裁判年月日: 昭和54年2月2日 / 結論: 棄却
請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき、注文者が請負人に対し、あらかじめ修補の請求をすることなく直ちに修補に代わる損害賠償の請求をした場合には、右請求の時を基準として賠償額を算定すべきである。
あてはめ
本件における曳船の瑕疵は、認定された事実関係によれば「比較的軽微」であり、瑕疵の重要性は低い。これに対し、当該瑕疵を修補するための改造工事等には「著しく過分の費用」を要すると認められる。このように、瑕疵が重要でないにもかかわらず多額の費用を要する場合に修補費用相当の賠償を認めると、当事者間の公平を失し、社会経済的にも不合理な結果を招く。したがって、本件は民法634条1項但書の法意が及ぶ場面といえる。
結論
上告人は、本件瑕疵の修補に代えて、改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできない。
実務上の射程
改正前民法下の判例であるが、現行法(契約不適合責任)下においても、履行請求(追完請求)の制限および損害賠償の範囲を画定する際の重要な指針となる。特に「瑕疵が重要でない」かつ「修補に過分の費用を要する」という二要件が、修補費用相当額の賠償を否定するためのハードルとして機能する。答案上は、追完請求権の限界(民法562条1項但書類推または信義則)と、損害賠償の範囲(相当因果関係)の議論において引用すべきである。
事件番号: 昭和59(オ)543 / 裁判年月日: 昭和60年5月17日 / 結論: その他
請負契約が請負人の責に帰すべき事由により中途で終了した場合において、残工事の施工に要した費用として、注文者が請負人に賠償を請求することができるのは、右費用のうち、未施工部分に相当する請負代金額を超える部分に限られる。
事件番号: 昭和48(オ)558 / 裁判年月日: 昭和50年2月25日 / 結論: 破棄差戻
単価を六五円とする穀用かますの売買契約において引き渡された一二万八一〇〇枚につき、買主が売主にあてて、右かますに欠陥があることを具体的に指摘したうえ、穀用かますとしての商品価値が認められず、一枚当り二〇円、数量一二万八一〇〇枚、この代金二五六万二〇〇〇円としての減価採用で精算させていただく等判示のような記載のある書面を…
事件番号: 昭和50(オ)485 / 裁判年月日: 昭和51年3月4日 / 結論: 棄却
注文者が民法六三七条所定の期間の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺については、同法五〇八条の類推適用がある。