単価を六五円とする穀用かますの売買契約において引き渡された一二万八一〇〇枚につき、買主が売主にあてて、右かますに欠陥があることを具体的に指摘したうえ、穀用かますとしての商品価値が認められず、一枚当り二〇円、数量一二万八一〇〇枚、この代金二五六万二〇〇〇円としての減価採用で精算させていただく等判示のような記載のある書面を送付したときは、特別の事情がないかぎり、買主は、売主に対し、受領物の瑕疵に基づく損害賠償の請求をするとともに、該請求権を自働債権とし売買代金債権を受働債権とする相殺の意思表示をしたものと解すべきである。
買主が売主に対し民法五七〇条に基づく損害賠償の請求をするとともに該請求権を自働債権とする相殺の意思表示をしたものと解された事例
民法91条,民法506条1項,民法566条,民法570条
判旨
売買の買主が売主に対し、目的物の瑕疵を具体的に指摘して約定代金額から瑕疵相当額を差し引いて「精算」する旨の通知をした場合、特段の事情がない限り、瑕疵担保に基づく損害賠償請求及びこれを自働債権とする相殺の意思表示がなされたものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
目的物に瑕疵があることを理由として、約定代金から瑕疵相当額を差し引いて「精算」する旨の意思表示がなされた場合、民法570条(現562条以下)に基づく損害賠償請求およびこれによる相殺の意思表示が含まれていると解すべきか。
規範
意思表示の解釈にあたっては、表示に用いられた文言のみならず、表示者の意図、当事者間の関係、および表示がなされた客観的状況を総合して判断すべきである。特に、対立する債権の特定およびそれらを対当額で消滅させる効果意思が客観的に示されている場合には、法的な構成(代金減額請求か損害賠償請求か等)が明示されていなくとも、相殺の意思表示の存在を認めることができる。
重要事実
事件番号: 昭和42(オ)1357 / 裁判年月日: 昭和43年3月28日 / 結論: 棄却
立木の売主甲より買主乙に対する売渡代金の請求訴訟において、甲勝訴の第一審判決後の控訴審で、乙が買受の意思表示に要素の錯誤があるか、または右意思表示が詐欺によるものとして取り消された旨の主張をしたのに対し、甲が弁論期日に欠席してその認否をしなかつたとしても、甲が右訴訟を維持している等の事実があるときは、甲は乙の右主張を争…
上告人(買主)は、被上告人(売主)から「かます」約12.8万枚を買い受けたが、受領した商品に瑕疵があった。上告人は被上告人に対し、「精算通知書並びに差額督促書」と題する書面を送付し、瑕疵の具体的指摘とともに、1枚あたり20円に減価して「精算」する旨を通知した。原審は、当該書面は代金減額請求を内容とするものであって、損害賠償請求および相殺の意思表示があったとは認められないとして、上告人の相殺の主張を排斥した。
あてはめ
本件書面では「精算」という文言が用いられ、瑕疵の具体的指摘に加え、約定代金より少額の債務のみを負うことが主張されている。売買当事者間で代金額が周知されている状況下では、この表示は、瑕疵による損害額を代金債務から差し引いて対当額で消滅させようとする効果意思の表れとみるのが合理的である。瑕疵担保責任において当然に代金減額が認められるわけではない以上、これを安易に代金減額請求と解するのは表示者の目的に合致しない。したがって、自働債権(損害賠償請求権)と受働債権(代金債権)の特定および相殺の効果意思が認められる。
結論
本件書面の送付により、特別の事情がない限り、上告人は損害賠償の請求および相殺をしたものと認められる。
実務上の射程
当事者の素人法的・実務的な言動を、法的に適切な効果(損害賠償請求+相殺)として再構成する意思表示解釈の枠組みを示したものである。答案上は、明示的に「相殺」という文言がなくても、経済的実態として債権債務の精算を求める意思が客観的に示されている場合には、相殺の有効性を主張する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1175 / 裁判年月日: 昭和43年3月1日 / 結論: 破棄差戻
(省略)
事件番号: 昭和50(オ)485 / 裁判年月日: 昭和51年3月4日 / 結論: 棄却
注文者が民法六三七条所定の期間の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺については、同法五〇八条の類推適用がある。
事件番号: 昭和25(オ)9 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない重畳的債務引受の事実を裁判所が認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、売買契約の売主が上告人及び共同被告Dの2名であると主張した。これに対し、上告人は売主は自分単独であり、後に免責的債務引受がなされたと抗弁した。しか…