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甲組合のピケにより本来の業務に就くことができなかつた乙組合員について、会社との間で具体的労務の提供及び受領があつたとされた事例
労働基準法第2章労働契約,民法536条2項
判旨
ストライキ期間中であっても、労働者が使用者の指揮命令下で代替労務に従事し、使用者がこれを受領した場合には、使用者は当該労務に対する賃金支払義務を負う。
問題の所在(論点)
労働者がストライキ期間中に、本来の職務とは異なる代替的な労務を提供した場合において、使用者は当該期間の賃金支払義務を負うか。労務提供の有無および受領の成否が問題となる。
規範
労働者が使用者の指揮命令下に置かれ、使用者に対して具体的に労務を提供し、使用者が当該労務を受領したと認められる場合には、当該労務提供が本来の職務とは異なる代替的なものであっても、労働契約上の賃金支払義務が発生する。
重要事実
タクシー会社の従業員らがストライキを決行した際、本来の業務である乗車業務には就かなかった。しかし、従業員らは毎日車庫に出向いて就労の意思を表明した上で、会社経営者の指示に従い、旅館にて仮処分申請書類の作成という代替労務に従事し、または指示があるまで待機していた。会社側は、スト終了後の給料日に貸金名義で当該期間に対応する金員を交付していた。
あてはめ
従業員らは、スト期間中も継続して会社が命じた代替労務に従事し、あるいは指示があるまで待機しており、これらは会社の指揮命令下で行われたものである。また、会社側もこれらの労務を拒絶することなく受領している。加えて、貸金名義とはいえ実質的に賃金相当額を支払っている事実は、会社側も労務提供を前提としていたことを推認させる。したがって、従業員らは会社に対し具体的に労務を提供し、会社はこれを受領したものと評価できる。
結論
会社は、ストライキ期間中の代替労務について、従業員らに対し賃金支払義務を負う。
実務上の射程
本判決は、争議行為中であっても、使用者が代替労務を命じ、労働者がこれに応じた場合には、不就労による賃金カットの原則が適用されず、現実の労務提供に応じた賃金債権が発生することを示したものである。答案上は、賃金請求権の発生要件である「使用者の指揮命令下での労務提供」の有無を、具体的指示の有無や態様から認定する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和57(オ)1190 / 裁判年月日: 昭和62年7月17日 / 結論: 棄却
部分ストライキによつてストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に当たらない。