判旨
被用者の職務が行き先の変更を伴う輸送業務である場合、使用者からの具体的な命令がないまま変更後の目的地へ向かったとしても、直ちに職務の範囲外とは認められず、民法715条1項の「事業の執行について」に該当し得る。
問題の所在(論点)
被用者が、使用者からの具体的な命令を受けないまま目的地を変更して車両を運行させた場合、民法715条1項の「事業の執行について」に該当するか。
規範
民法715条1項にいう「事業の執行について」とは、被用者の職務行為そのものだけでなく、客観的にみて職務の範囲に属すると認められる行為をも含む。具体的には、職務の本質的な目的や性質に照らし、その遂行に関連する一連の行為であれば、個別の行先変更等について使用者の具体的な命令を欠いていたとしても、なお職務の範囲内と解される。
重要事実
上告人(使用者)に雇用されていた被用者Dは、E劇団を次の興行予定地へ送り届ける職務に従事していた。輸送の途上で興行地が変更されたため、Dは劇団主の依頼に応じ、使用者からの直接の命令がないまま変更後の目的地へ向かった。その運行中に事故が発生し、被上告人(原告)の店舗に損害を与えたため、被上告人が上告人に対し使用者責任の追及を求めたものである。
あてはめ
Dの当時の職務は、E劇団を次の興行予定地に送り届けること自体にあった。目的地が変更された際、劇団主の依頼により変更後の場所に向かった行為は、劇団を送り届けるという本来の職務の目的に基づく一連の行動である。たとえ使用者による具体的な行先変更の命令がなかったとしても、職務の目的(劇団の輸送)に変更はなく、私利を目的とした逸脱行為や、下命区域を著しく外れた強行運行とも認められない。したがって、客観的に見てDの行為は依然として被用者の職務の範囲内に属すると評価される。
結論
Dの行為は「事業の執行について」なされたものと認められ、上告人は使用者責任を免れない。
実務上の射程
本判決は、外形標準説を前提としつつ、具体的な職務内容(輸送業務)の性質に着目して職務の範囲を柔軟に画定している。答案上は、被用者の当初の任務(本質的役割)を特定した上で、命令違反や行先変更があっても、それが職務の目的を達成するための合理的な関連性を有する場合には、職務範囲内とするあてはめに活用できる。
事件番号: 昭和44(オ)743 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
すし屋の店員二名が、使用者所有の自動車を運転し、またはこれに同乗して、出前に行く途中、右自動車の方向指示器を点燈したまま直進したため、これと衝突しそうになつた他の自動車の運転者と口論になり、そのあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合、これによつて同人の被つた損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたるというべ…