使用者が、従業員らに対し、文書により個別に、就業すべき日、時間、場所及び業務内容を指定して出張・外勤を命ずる業務命令を発したが、従業員らが、いずれも所属労働組合の外勤・出張拒否闘争に従い、右指定された時間に会社に出勤し、内勤の場合における各人の分担に応じ内勤業務に従事し、右業務命令に対応する労務を提供しなかつた等、判示の事実関係の下においては、右従業員らは債務の本旨に従つた労務の提供をしたものとはいえず、使用者は、その時間に対応する賃金の支払義務を負わない。
出張・外勤命令に従わず内勤業務に従事した従業員らに対し使用者が賃金の支払義務を負わないとされた事例
民法493条,労働基準法24条
判旨
労働者が業務命令を拒否して、本来提供すべき労務以外の労務を提供した場合、特段の事情がない限り、債務の本旨に従った履行とは認められず、使用者が賃金支払義務を負うことはない。
問題の所在(論点)
労働者が会社から命じられた特定の業務(出張・外勤)を拒否し、争議行為として自己の選別した別の業務(内勤)に従事した場合、労働者は債務の本旨に従った労務の提供をしたといえるか。また、使用者はその労務を受領したものとして賃金支払義務を負うか。
規範
労働者が特定の業務命令に反し、自己の判断で別の業務(内勤業務等)に従事した場合、それは債務の本旨に従った労務の提供とはいえない。また、使用者が特定の業務を事前に命じたことは、それ以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したと解すべきであり、使用者はその時間に対応する賃金の支払義務を負わない。
重要事実
被上告人(会社)は、上告人ら(労働者)に対し、日時・場所・内容を指定して出張・外勤を命じた。しかし、上告人らは所属組合の争議行為(外勤・出張拒否闘争)の方針に従い、これら一切の外勤を拒否した。上告人らは指定された時間に会社へ出勤し、書類作成や保守点検などの内勤業務に従事したが、会社は出張を命じた時間分について、提供された内勤労務を受領せず賃金も支払わなかった。
あてはめ
本件業務命令は、従来の慣行や争議権を不当に侵害するものではなく有効である。これに対し、上告人らが命じられた出張・外勤を拒否して内勤に従事したことは、指定された業務内容を履行していない以上、債務の本旨に従った履行とは評価できない。さらに、会社側が具体的な出張命令を発している事実は、その指定時間については出張以外の労務提供をあらかじめ拒絶する意思を示したものと解される。したがって、会社が内勤業務の労務を受領した事実は認められず、賃金債権は発生しない。
結論
上告人らの内勤業務への従事は債務の本旨に従った労務の提供ではなく、会社がこれを受領したともいえないため、会社は賃金支払義務を負わない。
実務上の射程
部分的ストライキ(一部業務の提供拒否)の場面において、労働者が「代わりの仕事をしたから賃金を払え」と主張することを否定する射程を持つ。使用者の指揮命令権に基づく業務の特定と、それ以外の受領拒絶の法理を明確にした判例である。
事件番号: 昭和52(オ)70 / 裁判年月日: 昭和56年12月17日 / 結論: 棄却
(省略)