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在外公館が太平洋戦争の終結に際して在留邦人から借り入れた資金の返還請求が排斥された事例
在外公館等借入金の返済の実施に関する法律3条
判旨
行政庁の行為につき、民法109条や110条の表見代理の規定を適用し得るとしても、相手方が代理権があると信じたことに「正当な理由」が認められない限り、国に効果帰属はしない。
問題の所在(論点)
公務員(総領事)による権限外の金銭借入行為について、民法110条等の表見代理が成立し、国にその責任を帰せしめることができるか。特に、相手方が権限があると信じたことの「正当な理由」の有無が問題となる。
規範
行政組織上の権限を超えた公務員の行為について、民法上の表見代理(109条、110条等)の規定が適用ないし類推適用され得るとしても、相手方において当該公務員に権限があると信ずべき「正当な理由」が存することが必要である。国のために債務を負担する行為は、官制上の権限を有する者によって行われるべきであり、権限の有無は法令等の規定に照らして判断される。
重要事実
昭和20年10月、在外公館の総領事Dが、外務大臣からの訓電に基づき、在留邦人である上告人から国のために金銭を借り入れた。当時の官制によれば、国のために借入れを行う権限は専ら大蔵大臣の所管に属しており、外務大臣や出納官吏としての総領事には、金銭を借り入れるなどの積極的な債務負担行為を行う権限はなかった。また、当該訓電の発信に際し、閣議決定や大蔵大臣との協議も経ていなかった。上告人は、総領事に借入れの権限があるものと信じて貸付けを行ったが、国がその返済義務を否定したため争われた。
あてはめ
本件借入れ当時の官制上、借入事務は大蔵大臣の専権事項であり、外務大臣や総領事にはその権限が全く存在しなかった。外務大臣が訓電を発した過程においても、閣議決定や大蔵大臣との協議という必要な行政手続が欠落していた。このような法令上の制限が存在する以上、たとえ外務大臣の指示に基づく行動であったとしても、相手方である上告人が「総領事に国を代表して借入れを行う権限がある」と信じたことには、客観的な事情に照らして正当な理由があるとはいえない。
結論
本件借入れについて表見代理は成立せず、国はその支払義務を負わない。
実務上の射程
行政上の表見代理の成否が問われる事案において、法令に基づく権限の分配が重視されることを示した。答案上は、私法上の表見代理を準用する余地を認めつつも、官制(法令)による権限の明確性を理由に「正当な理由」を厳格に判断し、結論として否定する際の手本となる。
事件番号: 昭和40(オ)1325 / 裁判年月日: 昭和41年10月11日 / 結論: 棄却
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