甲から所有権を譲り受けてその登記を経由した乙は、登記簿滅失による回復登記申請期間を徒過しても、乙の登記後甲から所有権を譲り受けた丙に対し、自己の所有権取得を対抗できる(昭和三四年七月二四日第二小法廷判決・民集一三巻八号一一九六頁参照)。
登記簿滅失による回復登記申請期間の徒過と所有権取得の対抗力
民法177条,不動産登記法23条
判旨
不動産譲受人が登記を経由した後、登記簿が滅失し回復登記申請期間を徒過した場合であっても、その後同一不動産を譲り受けた後順位の第三者に対し、登記なくして自己の所有権を対抗できる。
問題の所在(論点)
登記簿が滅失し、かつ回復登記申請期間内に回復登記がなされなかった場合、滅失前に登記を経由していた譲受人は、その後の譲受人(第三者)に対して登記なくして所有権を対抗できるか。民法177条の「登記」の存続が対抗力の維持に必要かが問題となる。
規範
不動産につき一旦有効な登記を経由した者は、その後登記簿の滅失という不測の事態により登記が失われ、かつ回復登記申請期間を徒過したとしても、それによって既得の対抗力が消滅することはない。
重要事実
本件土地の譲受人である被上告人B(乙)は、前所有者甲から譲渡を受けその旨の登記を経由していた。その後、戦禍等により登記簿が滅失し、法令で定められた回復登記の申請期間が設けられたが、Bは同期間内に回復登記の申請を行わなかった。一方で、被上告人の登記後(滅失前)に甲から同一土地を譲り受けたとする参加人ら(丙)が現れ、Bと丙との間で所有権の帰属が争われた。
事件番号: 昭和47(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和48年10月5日 / 結論: 棄却
一、入会部落の総有に属する土地の譲渡を受けた同部落の構成員は、右譲渡前にこれを時効取得した者に対する関係において、民法一七七条にいう第三者にあたる。 二、一筆の土地の一部を時効取得した場合でも、右土地部分の所有権取得につき登記がないときは、時効完成後旧所有者からこれを買い受けた第三者に対抗することができない。
あてはめ
Bは、登記簿が滅失する前に甲から所有権を取得し、その旨の登記を具備していた。不動産登記法上の回復登記は、既に存在する対抗力を公示し直す手続きに過ぎず、期間徒過によって実体法上の権利や対抗力が喪失するものではない。したがって、一旦登記を備えたBは、その後に現れた丙に対し、登記簿が滅失したままであっても、先行して対抗要件を備えた者としての地位を保持し、所有権を対抗できると解される。
結論
被上告人Bは、回復登記申請期間を徒過しても、参加人らに対し、本件土地の所有権取得を登記なくして対抗することができる。
実務上の射程
本判決は登記の「存続」が対抗力の要件ではないことを示しており、登記官の過誤による不当な抹消や、本件のような公文書滅失の場合に適用される。答案上は、177条の登記の具備が「一度なされれば足りるのか、存続し続ける必要があるのか」という文脈で、不動産登記制度の趣旨(不測の損害防止)から論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和40(オ)654 / 裁判年月日: 昭和41年10月21日 / 結論: 棄却
地盤上に植栽された立木の所有権を取得した者は、明認方法等の対抗要件を備えないかぎり、右地盤(土地)を地上の右立木とともに買いうけ右土地についてその所有権移転登記を経由した第三者に対し、前記立木所有権取得を対抗することができない。
事件番号: 昭和23(オ)53 / 裁判年月日: 昭和24年9月27日 / 結論: 棄却
ある土地につき実質上地上権を有せず登記簿上地上権として表示されているに過ぎない者は、右土地につき時効により地上権を取得した者に対し、その登記の欠缺を主張することができない。
事件番号: 昭和44(オ)56 / 裁判年月日: 昭和44年6月12日 / 結論: 破棄差戻
特定地域の土地が、甲乙間において、甲所有の丙地に含まれるか、乙所有の丁地に含まれるかが争われている場合には、甲がその主張の丙地について所有権取得登記を経由していなくても、乙はこの一事によつて甲の右土地に対する土地所有権取得を否定することはできない。
事件番号: 昭和51(オ)727 / 裁判年月日: 昭和51年11月5日 / 結論: 棄却
不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によつて生じた所有権移転の事実が存する限り独立して消滅時効にかからない。