仮処分債権者が担保取消決定を得るため権利行使の催告の申立をしても、これによつて、右債権者は、仮処分債務者に対し、仮処分及び本案訴訟が不法行為であることによる損害賠償債務を承認し、あるいは、消滅時効の利益を放棄したものということはできない。
仮処分債権者による権利行使の催告の申立と仮処分及び本案訴訟が不法行為であることによる損害賠償債務の承認又は時効利益の放棄
民法146条,民法147条3号,民訴法115条
判旨
仮処分債権者が担保取消しの前提として行う権利行使の催告申立ては、被担保債権の存在を前提とした裁判上の確定を促す手続にすぎず、損害賠償債務の承認や消滅時効の利益を放棄する意思表示には当たらない。
問題の所在(論点)
仮処分債権者が、担保取消手続の過程で行う「権利行使の催告」の申立てが、不法行為に基づく損害賠償債務の「承認」または「時効利益の放棄」に該当するか。
規範
債務の承認(民法152条1項)や時効利益の放棄(同法146条)が認められるためには、債務者が債権者に対して、債務の存在を認識していることを示すか、あるいは時効の完成を承知の上でその利益を享受しない意思を表示することが必要である。仮処分の担保取消しの前提となる権利行使の催告は、単に裁判所を通じて被担保債権の有無・範囲を確定させるための法的申立てであり、それ自体に損害賠償債務の成立を肯定する意思が含まれていると解することはできない。
重要事実
仮処分債権者(担保提供者)である被上告人は、訴訟完結後に担保取消決定を得るため、裁判所に対し、担保権利者(仮処分債務者)である上告人への「権利行使の催告」を申し立てた。これに対し上告人は、当該申立ては不法行為に基づく損害賠償債務の「承認」または「時効利益の放棄」にあたり、消滅時効は完成しないと主張して、不法行為による損害賠償を請求した。
あてはめ
本件における権利行使の催告の申立ては、仮処分債権者が担保を取り戻すための前提手続として、債務者に対し「損害賠償債権があるなら裁判上確定させるべきである」と促す性質のものである。これは客観的な債権の存否を法的に決着させることを求める手続であって、債権者(上告人)に対して自らの損害賠償債務を一方的に認めるような観念の通知や、時効の利益をあえて放棄する意思を表示したものとはいえない。したがって、債務の承認や時効利益の放棄としての法的効力を認めることはできない。
結論
仮処分債権者による権利行使の催告の申立ては、損害賠償債務の承認または時効利益の放棄には当たらない。上告人の請求は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
消滅時効の抗弁を封じる「承認」の成否が争点となる場面で活用できる。担保取消しという特定の目的達成のために必要な付随的・形式的な申立ては、直ちに権利の承認には結びつかないとする、承認の主観的態様を厳格に解する実務指針となる。
事件番号: 昭和47(オ)720 / 裁判年月日: 昭和49年3月15日 / 結論: 破棄差戻
約束手形の振出人が融通手形であることを理由としてその支払を拒絶した場合に、右振出人が同一の被融通者に対し額面合計五六七万円余に及ぶ七通の融通手形を振出しており、しかも右被融通者が既に支払を停止しているときは、これらの事実を知つた金融機関は右振出人との金融取引を警戒、敬遠するのが一般であるから、当該手形の所持人の右振出人…