一、使用者に労働基準法二〇条の違反があつても、裁判所が同法一一四条の附加金の支払を命じるまでに予告手当の支払を完了したときは、裁判所は附加金の支払を命じることはできない。 二、商人である使用者が労働者に対して負う賃金債務の遅延損害金の利率は商事法定利率によるべきである。 三、労働基準法一一四条による附加金の支払義務の履行遅滞による損害金の利率は民事法定利率によるべきである。
一、裁判所が労働基準法一一四条の附加金の支払を命じるまでに予告手当の支払を完了した場合と附加金の支払を命じることの可否 二、商人である使用者が労働者に対して負う賃金債務の遅延損害金の利率 三、労働基準法一一四条による附加金の支払義務の履行遅滞による損害金の利率
労働基準法114条,商法4条,商法503条,商法514条,民法404条,民法419条
判旨
労働基準法114条の付加金支払義務は、裁判所の命令により初めて発生するため、命令前に未払金が支払われれば命じることはできない。また、賃金債務の遅延損害金利率は商事法定利率によるが、付加金の遅延損害金は民事法定利率によるべきである。
問題の所在(論点)
1. 裁判所の命令前に未払金が支払われた場合、付加金の支払を命じることができるか。 2. 商人である使用者が負う賃金債務の遅延損害金利率、及び付加金債務の遅延損害金利率は、それぞれ商事法定利率と民事法定利率のいずれによるべきか。
規範
1. 労働基準法114条の付加金支払義務は、労働者の請求により裁判所が支払を命じることによって初めて発生する。ゆえに、裁判所の命令があるまでに使用者が未払金の支払を完了し、義務違反の状況が消滅した場合には、裁判所は付加金の支払を命じることができない。 2. 商人が労働者と締結する労働契約は、反証のない限り営業のためにするものと推定される(商法503条2項)。したがって、賃金債務の遅延損害金利率は商事法定利率によるべきである。一方、付加金支払義務は法が課した制裁的義務であり労働契約に基づくものではないため、民事法定利率が適用される。
重要事実
労働者である上告人が、商人である被上告人に対し、未払の時間外勤務手当(賃金)及びこれに対する遅延損害金、並びに労働基準法114条に基づく付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。原審は、賃金債務及び付加金のいずれについても、遅延損害金の利率を民事法定利率(年5分)と判断した。また、付加金の請求の可否についても争われた。
あてはめ
1. 付加金について:本件において、仮に使用者に労働基準法違反があっても、裁判所の命令があるまでに未払金の支払が完了していれば、義務違反の状況が消滅したものとして、付加金の請求は認められない。 2. 賃金債務の利率について:被上告人は商人であり、本件労働契約は営業のためにしたものと推定される。そのため、賃金債務は商行為によって生じた債務(商法514条)にあたり、商事法定利率(当時年6分)が適用される。 3. 付加金の利率について:付加金は労働契約上の債務ではなく、法が命じる制裁としての性質を持つため、商事法定利率の適用はなく、民事法定利率による。
結論
1. 裁判所の命令までに未払金が支払われれば付加金は認められない。 2. 商人である使用者の賃金債務には商事法定利率が適用されるが、付加金の遅延損害金には民事法定利率が適用される。
実務上の射程
付加金請求の「行使時期」と「消滅場面」を画定する重要な判例である。答案上は、付加金の性質を「裁判上の請求により裁判所が命じることで発生する形成判決に近い性質」と理解し、被告(使用者)側が訴訟係属中に未払分を支払うことで付加金を回避できるという抗弁の根拠として用いる。また、賃金が「営業のためにするもの」と推定される点も実務上重要である。
事件番号: 平成9(オ)1710 / 裁判年月日: 平成12年9月12日 / 結論: 破棄自判
銀行が、就業規則を変更し、完全週休二日制を実施する一方で、平日の所定労働時間を毎週最初の日及び毎月二五日から月末までは六〇分間、その他は一〇分間延長した場合において、平日の所定労働時間の延長は労働条件を不利益に変更するものであるが,右就業規則の変更により年間所定労働時間は相当減少し休日が増加するから、従業員の被る不利益…