貸金請求訴訟の提起は、後訴の立替金請求訴訟と基本的事実関係が同一であつても、右立替金債権につき時効中断事由とならない。
貸金請求訴訟と立替金請求訴訟との基本的事実関係が同一である場合と時効の中断
民法147条
判旨
取締役による無利息・無担保の金銭貸付けは利益相反取引に当たらず、また、貸金請求訴訟の提起は、たとえ基本的事実関係が同一であっても、訴訟物を異にする立替金債権の消滅時効を中断させない。
問題の所在(論点)
1. 取締役から会社への無利息・無担保の貸付けに取締役会の承認が必要か。2. 貸金請求訴訟の提起によって、同一の事実関係に基づく立替金債権の時効は中断するか。
規範
1. 取締役が会社に対し無利息・無担保で金銭を貸し付ける行為は、会社に不利益を与えるおそれがないため、商法265条(現行会社法356条1項2号)の「取引」に該当せず、取締役会の承認を要しない。2. 消滅時効の中断事由としての裁判上の請求(民法147条1号)の効力は、訴訟物である特定の権利についてのみ生じる。基本的事実関係が同一であっても、別個の訴訟物を構成する債権については時効中断の効力は及ばない。
重要事実
取締役であった上告人は、被上告会社に対し、昭和33年に100万円を無利息・無担保で貸し付けた。また、上告人は昭和34年に会社のために金銭を立替えたと主張し、当初は「貸金」として支払を求める訴訟を提起したが、後に「立替金」を予備的請求として追加した。会社側は、取締役会の承認欠缺による貸付の無効や、立替金債権の消滅時効を主張して争った。
あてはめ
1. 上告人による100万円の貸付けは、原審により無利息・無担保の約定であったと認定されている。この場合、会社にとって一方的に有利な行為であり、利益相反の危険がないため、取締役会の承認がなくとも有効である。2. 上告人は貸金請求訴訟の提起により権利行使の意思を明確にしていたが、貸金債権と立替金債権は訴訟物を異にする別個の紛争である。実質的に紛争が共通していても、法的には別個の債権である以上、先行する貸金請求の訴えをもって立替金債権の時効中断事由(裁判上の請求)とすることはできない。
結論
1. 取締役会承認を欠いても貸付は有効である。2. 貸金請求の提訴は立替金債権の時効を中断させない。本件立替金については債務承認の有無につき審理を尽くさせるため差し戻すべきである。
実務上の射程
会社法分野では、会社にのみ利益がある取引(無利息貸付等)が利益相反取引の規制対象外であることを示す重要判例である。民法分野では、時効中断の効力が及ぶ客観的範囲を「訴訟物」単位で厳格に解する実務指針として機能する。
事件番号: 昭和37(オ)437 / 裁判年月日: 昭和38年12月6日 / 結論: その他
株式会社に対しその取締役が無利息、無担保で金銭を貸し付ける行為は、商法第二六五条にいう取引にあたらない。