建物の賃借人から賃貸人に対し敷金がさしいれられている場合においても、特段の事情のないかぎり、賃借人が賃料を延滞したときは、これを理由に賃貸人は賃貸借契約を解除することができ、右差入敷金額が一六万円、延滞賃料が二〇万円で、差引をした場合には賃料の延滞分が一か月分にもみたないとしても、右契約解除が信義則に反し権利濫用となるものではない。
建物の賃借人から敷金がさしいれられている場合と賃料延滞を理由とする契約解除
民法619条
判旨
賃貸借契約において敷金が交付されていても、特段の事情のない限り、賃貸人は賃料延滞を理由として契約を解除することができる。
問題の所在(論点)
敷金が差し入れられている場合、賃貸人は賃料延滞を理由に賃貸借契約を解除することができるか。また、その解除が権利濫用となるか。
規範
賃貸借契約において敷金が差し入れられていても、敷金の性質上、特段の事情のない限り、賃料延滞を理由として契約を解除することを妨げられない。また、当該解除が信義則に反し権利濫用となるかは、個別の事実関係に基づき判断される。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人A)に対し、特約を付して建物を賃貸した。賃借人は賃料を延滞したが、本件賃貸借契約には敷金が差し入れられていた。賃貸人は賃料延滞を理由に契約を解除したが、賃借人側は、敷金の存在や特約の形骸化(例文解釈)を理由に、解除の無効や権利濫用を主張して争った。
あてはめ
まず、本件の特約は原審において適法に確定した事実であり、単なる例文(形骸化した文言)ではなく有効な特約として認められる。次に、敷金は将来の債務を担保するものであるが、その存在自体によって賃貸人の解除権行使が当然に制約されるものではない。本件においても、敷金が差し入れられているからといって賃料延滞による解除ができないとする特段の事情は認められない。さらに、原判決の認定した事実関係に照らせば、本件解除が信義則に反する、あるいは権利濫用であると評価すべき事情も存在しない。
結論
敷金が差し入れられていても賃料延滞を理由とする解除は適法であり、本件解除は権利濫用にも当たらない。
実務上の射程
敷金による充当がなされていない段階での賃料不払解除の可否を論じる際の根拠となる。答案上は、敷金の担保的性格を指摘しつつ、賃料支払義務の不履行という債務不履行の事実があれば、特段の事情がない限り解除権が発生するという論理構成で使用する。
事件番号: 昭和40(オ)1133 / 裁判年月日: 昭和41年11月24日 / 結論: 棄却
家賃が一躍二六倍に値上げされた場合であつても、該値上額が第一審判決によつて正当と判断された後、賃借人が値上額の家賃の支払催告に応じなかつたときは、それを理由とする賃貸人の契約解除は有効である。