判旨
賃貸人が解約申入れ後、明渡請求の調停申立てや訴えの提起を継続している状況下では、賃料相当額の金員を受領したとしても、直ちに解約申入れの撤回を認めることはできない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の解約申入れ後、賃貸人が「賃料」名目で金員を受領した場合に、借地借家法(旧借家法)上の解約申入れの撤回があったとみなされるか、あるいは黙示の更新が認められるかが問題となる。
規範
賃貸借契約の解約申入れ後に賃貸人が賃料名目で金員を受領した事実があっても、明渡しの督促や法的措置の継続など、賃貸人の明渡しを求める確定的な意思が客観的に認められる場合には、解約申入れの撤回の意思表示があったとは解されない。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、昭和31年2月に賃貸借契約の解約申入れを行った。同年10月に家屋明渡請求の調停を申し立てたが不調に終わり、同月末には明渡しを求める本案訴訟を提起した。一方で、賃貸人は同年9月以降、賃料または部屋代名義で賃料相当額の金員を受領していた。これに対し賃借人は、金員の受領により解約申入れが撤回されたと主張して争った。
あてはめ
本件では、賃貸人は解約申入れ後、速やかに明渡請求の調停を申し立て、さらにそれが不調に終わるや否や直ちに明渡訴訟を提起している。このような一連の法的手段の行使は、賃貸人が契約の終了と物件の返還を強く求めていることを示すものである。したがって、たとえ「賃料」等の名称で金員を受領していたとしても、それは不法占拠期間中の賃料相当損害金として受領したものと解するのが合理的であり、解約申入れを撤回し契約を存続させる意思があったとはいえない。
結論
解約申入れの撤回は認められず、賃貸借契約の終了に基づく明渡し請求は認められる。
実務上の射程
解約申入れ後の賃料受領が「黙示の更新」(借地借家法26条2項)や解約撤回と認定されるのを防ぐための判断枠組みとして活用できる。訴訟や調停の提起といった「異議」が明確であれば、名目を問わず受領事実のみで直ちに更新が認められるわけではないことを示す射程を有する。
事件番号: 昭和34(オ)935 / 裁判年月日: 昭和35年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不適法な供託により賃料債務は消滅せず、債権者が供託金を異議なく受領した事実がない限り、単なる還付請求によって供託が遡及的に有効となることはない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃料の支払いについて供託を行ったが、その供託は要件を欠き不適法なものであった。その後、賃貸人(被上告人)側から還付…