賃借人の居住の事実を知りながらその賃借家屋を買い受けた者が賃貸人としてなした解約の申入は、そのことだけで信義則に違反するとはいえない。
賃借人の居住を知つてその賃借家屋を買い受けた者のする解約の申入戸信義則違反。
判旨
賃借人の居住事実を知りながら家屋を買い受けた賃貸人による解約申入れは、直ちに信義則に反するものではない。また、弁済供託の有効要件である「債権者の受領拒絶」について、訴訟で供託の無効を主張する債権者が供託金を受領しない事実のみから、事前の受領拒絶を推認することはできない。
問題の所在(論点)
1. 賃借人の居住を知りつつ物件を取得した賃貸人による解約申入れが信義則に反するか。2. 供託金の不受領という事後的な事実から、供託の有効要件である「事前の受領拒絶」を推認できるか。
規範
1. 賃借人の居住事実を認識して家屋を取得した新賃貸人が行う解約申入れは、その事情のみをもって直ちに信義則に反するものとは解されない。2. 弁済供託(民法494条)が有効であるためには、事前の弁済提供に対し債権者が受領を拒絶したこと等の要件を要する。供託の無効を主張する債権者が供託金を受領しないことは当然の対応であり、当該事実から遡って事前の受領拒絶を推認することは許されない。
重要事実
上告人(賃借人)が居住している家屋を、被上告人(新オーナー)がその居住事実を知りながら買い受け、賃貸人の地位を承継した。その後、被上告人は上告人に対し解約の申入れを行った。これに対し上告人は、居住事実を知りながら買い受けた者による解約申入れは信義則に反すると主張した。また、賃料の弁済供託の有効性に関し、被上告人が供託金を受領していない事実をもって、事前の弁済提供に対する受領拒絶があったといえるかが争われた。
あてはめ
1. 権利の行使が信義則に反するかは諸般の事情を総合考慮すべきであるが、単に賃借人が居住していることを承知で家屋を買い受けたという一事をもって、解約申入れを封じることは法的安定性を欠き妥当ではない。2. 供託の有効性を争う債権者にとって、供託金を受領しないことは自らの主張と整合させるための当然の行為である。したがって、この不受領の事実を捉えて、供託前になされるべき「弁済の提供に対する拒絶」という客観的事実があったと認定することは論理の飛躍があるといえる。
結論
1. 本件解約申入れは信義則に違反しない。2. 供託金不受領の事実から事前の受領拒絶を推認することはできず、供託は無効となり得る。
実務上の射程
賃貸借の承継における解約申入れの可否や、弁済供託の有効要件(受領拒絶)の立証責任・事実認定が問題となる場面で活用できる。特に供託については、事後の不受領という事情だけでは不十分であり、事前の提供・拒絶のプロセスを個別具体的に立証する必要があることを示唆している。
事件番号: 昭和33(オ)35 / 裁判年月日: 昭和33年6月26日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除権の行使が信義則に反するか否かは、賃借人の生活上の困窮や住居喪失の打撃と、賃貸人側の諸事情を比較衡量して判断すべきである。また、賃料支払請求がなされた際、賃借人が弁済供託の事実を主張立証している場合には、裁判所はその有効性を審理判断しなければならない。 第1 事案の概要:賃貸人(被…