判旨
賃貸借契約の解除権の行使が信義則に反するか否かは、賃借人の生活上の困窮や住居喪失の打撃と、賃貸人側の諸事情を比較衡量して判断すべきである。また、賃料支払請求がなされた際、賃借人が弁済供託の事実を主張立証している場合には、裁判所はその有効性を審理判断しなければならない。
問題の所在(論点)
1. 賃貸借契約の解除権の行使が信義則に反し、権利濫用として無効となる判断基準。2. 賃借人が弁済供託の事実を主張立証している場合に、裁判所がこれを審理せずに賃料支払を命じることの適否。
規範
賃貸借契約の解除権の行使が、信義則(民法1条2項)に反して無効となるか否かは、賃借人一家に通常人の堪忍の限度を超える忍苦を強いるか、あるいは破滅的打撃と痛苦を与えるものといえるかという観点から、賃貸人・賃借人双方の諸事情を参酌して判断する。また、賃料債務の存否を判断するにあたっては、弁済供託の主張がある場合、その供託による債務消滅の成否を審理すべき義務がある。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人)に対し、賃貸借契約の解除に基づき家屋の明渡しと賃料相当額の支払を求めた事案。上告人は、一家の収入状況から住居を失うことの困難性を訴え、解除権の行使は信義則に反し無効であると主張した。また、上告人は第一審から、対象期間の賃料について弁済供託を行っている旨を主張し、証拠(乙号証)を提出していた。原審は、解除を有効と認めつつ、弁済供託の事実に言及しないまま賃料の支払を命じた。
あてはめ
1. 解除の有効性について:上告人一家の総収入を考慮すれば、判示のような解決策が皆無とはいえない。被上告人側の諸事情をあわせて参酌すれば、本件解除は上告人に通常人の生活上の忍苦を超える負担を強いるものでも、最低限度の生活を脅かすものでもない。したがって、破滅的打撃を与えるとは認められず、信義則に反しない。 2. 賃料支払について:上告人は弁済供託の事実を具体的に主張立証しており、供託によって賃料債務を免れている可能性がある。それにもかかわらず、原審がこの点について何ら審理判断を行わずに賃料支払を命じたのは、審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
1. 賃貸借契約の解除は信義則に反せず有効である。2. 弁済供託の主張を審理せずに賃料支払を命じた部分は違法であり、当該部分は破棄を免れない。
実務上の射程
賃貸借の解除における信義則違反の成否を判断する際の比較衡量の枠組みを示す。実務上、賃借人の困窮という事実だけでなく、賃貸人側の正当な事情や賃借人の代替手段の有無を総合考慮する際の指針となる。また、弁済供託の抗弁がある場合の裁判所の審理義務を確認している。
事件番号: 昭和34(オ)935 / 裁判年月日: 昭和35年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不適法な供託により賃料債務は消滅せず、債権者が供託金を異議なく受領した事実がない限り、単なる還付請求によって供託が遡及的に有効となることはない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃料の支払いについて供託を行ったが、その供託は要件を欠き不適法なものであった。その後、賃貸人(被上告人)側から還付…