一、夫婦関係が破綻に瀕している場合に、夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡を請求したときには、幼児の拘束がいかなる手段、方法により開始されたかということよりも、幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるかを主眼として、その拘束の違法性の有無を判定し、右請求の許否を決すべきである。 二、人身保護規則五条は、被拘束者が意思能力を有している場合に関する規定である。
一、夫婦の一方から他方に対する人身保護法に基づく幼児の引渡請求許否の判定基準 二、人身保護規則五条と被拘束者の意思能力
人身保護法2条,人身保護規則5条,人身保護規則4条
判旨
夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権下にある幼児の引渡を請求する場合、拘束の違法性は幼児の幸福を主眼として判定すべきである。また、民法上の親権喪失宣告等の手段がある場合でも、人身保護法による適切かつ迅速な救済を求めることが可能である。
問題の所在(論点)
1. 意思能力のない幼児に対する監護行為が人身保護法上の「拘束」にあたるか。 2. 共同親権者間における幼児引渡請求において、拘束の違法性をいかなる基準で判断すべきか。 3. 民法上の親権に関する手続が存在する場合、人身保護法による救済が制限されるか。
規範
1. 意思能力のない幼児を手元に置き監護する行為は、当然に身体の自由を制限する性質を有し、人身保護法上の「拘束」に該当する。 2. 共同親権者間での幼児引渡請求における「拘束の違法性」(人身保護法2条1項、規則4条)は、拘束の開始手段・方法よりも、「幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるか」を主眼として判定し、その違法性が顕著である場合に認められる。 3. 親権停止等の民事上の手続が存在する場合であっても、人身保護法による迅速な救済を妨げるものではない。
重要事実
事件番号: 昭和42(オ)1455 / 裁判年月日: 昭和43年7月4日 / 結論: 棄却
一、意思能力のない幼児を監護することは、監護方法の当不当または愛情に基づく監護であるかどうかとはかかわりなく、人身保護法および同規則にいう拘束と解すべきである。 二、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として子に対…
夫婦関係が破綻に瀕している状況において、上告人(父)が被上告人(母)から暴力を用いて幼児(当時4歳7ヶ月)を奪取し、手元で監護を開始した。被上告人は、上告人による監護が違法な拘束にあたるとして、人身保護法に基づき幼児の引渡を求めた。上告人は、幼児が意思能力を有しないこと、および民法上の親権喪失等の手続によるべきであることを主張して争った。
あてはめ
本件の被拘束者は約4歳7ヶ月の幼児であり意思能力を有しないため、上告人の監護は「拘束」にあたる。また、上告人は暴力をもって幼児を奪取しており、原審が確定した事実関係によれば、幼児にとっては上告人よりも被上告人によって監護される方が幸福であることが明らかである。したがって、上告人による監護は幼児の幸福に反し、拘束の違法性が顕著であると認められる。民法上の親権喪失手続等では迅速な救済が困難な場合があり、本件での本法による請求は適当である。
結論
上告人による幼児の監護は、違法性が顕著な拘束にあたる。したがって、人身保護法に基づく引渡請求は認められ、上告を棄却する。
実務上の射程
共同親権者間の幼児引渡において「子の福祉(幸福)」を違法性判断の最優先基準とした重要判例。ただし、後の最判昭46.11.15および最判平5.10.19により、監護に関する家庭裁判所の審判等がない限り、人身保護法による救済は「特段の事情」がある場合に限定されるなど、補充性の観点から射程が限定されている点に注意を要する。
事件番号: 昭和46(オ)760 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
夫婦関係の破綻に瀕した夫が子を拘束したのち約五か月を経て妻から人身保護請求による救済を求めた場合でも、判示の事情のもとでは、緊急性を欠くものではなく、救済を与えることができる。