夫婦関係の破綻に瀕した夫が子を拘束したのち約五か月を経て妻から人身保護請求による救済を求めた場合でも、判示の事情のもとでは、緊急性を欠くものではなく、救済を与えることができる。
拘束後約五か月を経てした人身保護請求が緊急性を欠くものではないとして救済を与えられた事例
人身保護法2条,人身保護規則4条
判旨
夫婦関係が破綻した状況において、1歳程度の幼児の引渡しを求める人身保護請求は、実母による監護が現状よりも明白に子の幸福に資し、拘束の違法性が顕著である場合には認められる。また、拘束から5か月程度の経過や他の法的手段の存在は、直ちに請求の必要性や適法性を否定するものではない。
問題の所在(論点)
人身保護法における「拘束の違法性」の判断基準、および家事調停等の他手続が存在する場合における人身保護請求の必要性・適法性が問題となる。
規範
幼児の監護に関する人身保護法上の拘束の違法性は、現に拘束している者の監護に比して、請求者に監護されることが子の幸福のために明白に必要であるか否かを基準に判断する。特に1歳程度の幼児については、特段の事情がない限り実母による監護が相当であるとの考慮が働き、その状態を阻害することは拘束の違法性が顕著であると解される。
重要事実
1歳程度の幼児(被拘束者)の父母が、夫婦関係の破綻に瀕していた。父(上告人)は、被拘束者を自身から遠く離れた鹿児島市に住む従兄夫婦に委託して養育させていた。これに対し、実母(被上告人)は勤務をしながらも監護能力に欠けるところはなく、幼児の引渡しを求めた。実母は拘束から約5か月の間、返還要求や調停申し立てを行っていたが不調に終わり、人身保護法に基づく請求を提起した。
事件番号: 昭和42(オ)1455 / 裁判年月日: 昭和43年7月4日 / 結論: 棄却
一、意思能力のない幼児を監護することは、監護方法の当不当または愛情に基づく監護であるかどうかとはかかわりなく、人身保護法および同規則にいう拘束と解すべきである。 二、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として子に対…
あてはめ
本件では、実母が監護能力を備えている一方で、父は遠方の親族に養育を委託しており、実母による監護が子の幸福にとって明白に優越するといえる。1歳という幼児の性質を考慮すれば、現状よりも実母のもとで養育される方が「明白に幸福」であり、拘束の違法性は顕著である。また、拘束から5か月が経過しているものの、その間実母は継続的に返還を求めており、新たな安定した状態が形成されたとはいえないため、救済の必要性・緊急性も認められる。人身保護手続は最も迅速な救済手段として適切である。
結論
被拘束者の拘束の違法性が顕著であり、実母による人身保護請求を認容した原審の判断は正当であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
子の引渡しにおける「顕著な違法性」の判断枠組みを示す典型例である。実務上は、人身保護規則4条の「顕著な違法性」の解釈において、子の利益(福祉)の観点から、どちらの監護がより幸福かを対比・評価する際の論拠として用いる。また、人身保護請求の補充性(他の手段の存否)についても、迅速な救済の観点から弾力的に認める姿勢を示している。
事件番号: 昭和53(オ)316 / 裁判年月日: 昭和53年4月7日 / 結論: 棄却
幼児を認知し、かつ、審判によりその親権者と定められた父が、右幼児を拘束する母に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡を求める場合には、請求者に右幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、たとえ、拘束開始当時には、右審判が拘束者のした即時抗告により未確定の状態にあり、拘束者がなお親権者の地位にあつて、請求…
事件番号: 昭和44(オ)698 / 裁判年月日: 昭和44年9月30日 / 結論: 棄却
一、夫婦関係が破綻に瀕している場合に、夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡を請求したときには、幼児の拘束がいかなる手段、方法により開始されたかということよりも、幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるかを主眼として、その拘束の違法性の有無を判定し、右請求の許否を決すべきであ…