幼児を認知し、かつ、審判によりその親権者と定められた父が、右幼児を拘束する母に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡を求める場合には、請求者に右幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、たとえ、拘束開始当時には、右審判が拘束者のした即時抗告により未確定の状態にあり、拘束者がなお親権者の地位にあつて、請求者に監護権の行使を委ねていた事実がなく、また、現在の拘束者の監護が一応妥当なときであつても、その拘束は違法性が顕著であると解するのが相当である。
親権者である父から親権者でない母に対する幼児の人身保護請求の場合における拘束の違法性の顕著性
人身保護法2条,人身保護規則4条
判旨
意思能力のない幼児の親権者に指定された者が、幼児を拘束する他方に対し人身保護法に基づき引渡を求める場合、引渡が子の幸福に明らかに反しない限り、現在の監護が妥当であっても拘束の違法性は顕著となる。
問題の所在(論点)
人身保護法に基づく救済要件である「顕著な違法性」(人身保護規則26条後段)の有無。特に、子の引渡請求において、親権者の指定がなされている場合に、現在の拘束者の監護が不適当とはいえない状況であっても、拘束の違法性が顕著といえるか。
規範
意思能力のない幼児を認知し、審判で親権者と定められた父が、幼児を拘束する母に対し人身保護法に基づき引渡を求める場合、請求者に幼児を引き渡すことが明らかに子の幸福に反するものでない限り、その拘束は「違法性が顕著」である。これは、拘束開始時に審判が未確定であっても、また現在の拘束者の監護が一応妥当であっても同様である。
重要事実
上告人(母)と被上告人(父)は内縁関係にあったが破綻。意思能力のない幼児について、家裁の審判により父が親権者と定められた。母は審判に対し即時抗告したが、抗告中に父の監護下にあった幼児を連れ去り、以後監護を継続した。その後、母の抗告は棄却され、父を親権者とする審判が確定した。母の監護には別段の支障はなく愛情ある養育が期待できる状況であったが、父の監護が子の幸福に反するとまではいえない状態であった。
あてはめ
本件において、被拘束者は意思能力のない幼児であり、被上告人は審判により確定した親権者である。一方で上告人は親権者としての監護権を失っている。被上告人に幼児を引き渡すことが子の幸福に反するとの事実は認められず、むしろ親権者による監護を妨げている現状がある。拘束開始時に審判が未確定であったことや、上告人の監護が一応妥当であることは、確定した親権者の権利行使を妨げる理由にはならず、実質的な監護能力の優劣を問わず、法的な監護権を欠く者による占有は違法性が顕著と評価される。
結論
本件拘束は違法性が顕著であるといえるため、人身保護法に基づく引渡請求は認められる。上告を棄却する。
実務上の射程
親権者・監護者が法的に指定されている場面での人身保護請求におけるリーディングケースである。子の幸福に反するという特段の事情がない限り、法的な権利者の地位を重視し、監護能力の比較(いわゆる監護の継続性の原則等)を人身保護手続に持ち込ませない実務の指針となっている。
事件番号: 昭和46(オ)760 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
夫婦関係の破綻に瀕した夫が子を拘束したのち約五か月を経て妻から人身保護請求による救済を求めた場合でも、判示の事情のもとでは、緊急性を欠くものではなく、救済を与えることができる。