夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求するに際し、他方の配偶者の親権の行使が家事審判規則五二条の二の仮処分等により実質上制限されているのに右配偶者がこれに従わない場合、又は幼児が、一方の配偶者の監護の下で安定した生活を送ることができるのに、他方の配偶者の監護の下においては著しくその健康が損なわれ、若しくは満足な義務教育を受けることができないなど、他方の配偶者の幼児に対する処遇が親権の行使という観点からも容認することができないような例外的な場合には、幼児が他方の配偶者に監護されることが一方の配偶者による監護に比べて子の幸福に反することが明白であるものとして、拘束の違法性が顕著であるということができる。
共同親権者間における幼児の人身保護請求につき被拘束者が拘束者に監護されることが請求者による監護に比べて子の幸福に反することが明白であるものとして拘束の違法性が顕著であるとされる場合
人身保護法2条1項,人身保護規則4条
判旨
共同親権者間の子の引渡し請求において、拘束者による監護が請求者の監護に比して子の幸福に反することが「顕著」といえるためには、監護を命ずる仮処分等に違反している場合や、拘束者の処遇が親権行使として容認できないほど子の健康や教育を著しく損なう等の例外的な場合に限られる。
問題の所在(論点)
人身保護法上の「拘束の違法性」の要件である「権限なしにされていることが顕著であること」(人身保護規則4条)の判断基準、特に共同親権者間における幼児の監護・拘束がこれに該当するための要件が問題となる。
規範
共同親権に服する幼児の引渡し請求において、拘束が「権限なしにされていることが顕著」(人身保護規則4条)といえるためには、拘束者の監護が請求者の監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要する。具体的には、①幼児引渡しを命ずる仮処分や審判が存在し親権行使が実質的に制限されているのにこれに従わない場合、または②拘束者の下では子の健康が著しく損なわれたり義務教育を受けられないなど、親権行使の観点から容認できない例外的な場合に限定される。
重要事実
身体障害を有する母親(請求者)と歯科医師の父親(拘束者)が別居し、当初は母親が子2人を監護していた。父親は登校中の子を車で連れ去り、以後自身の母親の協力を得て監護を継続した。原審は、母親の元では子の喘息が改善していたことや母性優先の理を考慮し、父親による監護は子の幸福に反することが明白として請求を認容したため、父親が上告した。
あてはめ
本件では、子の喘息が悪化する「おそれ」があるにとどまり、具体的に健康が害されているわけではない。また、父親も子に愛情を持って接しており、子は学童として支障のない生活を送っている。母親の監護の方が優れているという事情は、あくまで相対的な優劣の論定にすぎない。したがって、父親の監護が親権行使として容認できないような例外的な場合に当たらず、子の幸福に反することが明白とはいえない。
結論
拘束者による監護が、請求者による監護に比して子の幸福に反することが明白であるとはいえず、拘束の顕著な違法性は認められない。
実務上の射程
人身保護法による子の引渡しは、家庭裁判所の審判に代替する「非常救済手段」としての性格を持つ。そのため、単なる監護能力の優劣比較(相対的な幸福の比較)では足りず、家裁の仮処分違反や、虐待・ネグレクトに準ずるような明白な権利濫用事態が必要となる。答案では、まずは家裁の手続によるべきことを示唆しつつ、本規範を厳格に適用すべきである。
事件番号: 平成5(オ)609 / 裁判年月日: 平成5年10月19日 / 結論: 破棄差戻
夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求する場合において、幼児に対する他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、右監護が、一方の配偶者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要する。