被拘束者に対する監護能力という点では、請求者である妻と拘束者である夫及びその両親との間に差異があるとは断定できず、双方の経済状態及び居住環境という点では、夫の側がむしろ優れているといえるなど判示の事実関係の下においては、被拘束者が生後一年未満の乳児であることを考慮に入れても、夫及びその両親による監護・拘束が乳児の幸福に反することが明白であるということはできない。
妻が夫及びその両親に対して乳児の引渡しを求めた人身保護請求において夫の側による監護・拘束が乳児の幸福に反することが明白であるとはいえないとされた事例
人身保護法2条1項,人身保護規則4条
判旨
共同親権者間における幼児の引渡し請求において、拘束が「顕著な違法性」を有すると認められるためには、監護状態が子の幸福に反することが明白であることを要し、これは子が乳児である場合も同様である。
問題の所在(論点)
共同親権者間における幼児の引渡し請求において、人身保護法上の「顕著な違法性」(人身保護規則5条)が認められるための要件、および子が乳児である場合に「母性優先の理」が直ちに明白性を基礎付けるか。
規範
夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡しを請求する場合、拘束が権限なしにされていることが「顕著」であるというためには、当該監護・拘束が「子の幸福に反することが明白」であることを要する。この理は、子が乳児である一事によって異なるものではない。
重要事実
婚姻関係が破綻した夫婦間において、妻(被上告人)が長女(被拘束者、当時0歳)を連れて別居した。その7日後、夫(上告人)が実家から長女を連れ戻し、以後、祖父母と共に監護・養育を継続した。長女は順調に発育し、夫側の経済状態や居住環境は妻側より優れていたが、原審は「乳児は母親のスキンシップが幸福に不可欠である」として引渡しを認めたため、夫側が上告した。
あてはめ
上告人(夫側)の監護能力は被上告人と遜色なく、経済・居住環境においてはむしろ優れている。被拘束者が生後1年未満の乳児であることを考慮しても、現在の監護状態が「子の幸福に反する」と断じるに足りる客観的事実は存在しない。したがって、単に母親による監護が自然であるという一般的抽象的な理由のみをもって、拘束の違法性が「明白」であると認めることはできない。
結論
上告人らによる拘束が子の幸福に反することが明白とはいえないため、人身保護請求は棄却されるべきである(原判決破棄・差し戻し)。
実務上の射程
共同親権者間の引渡し請求では、家庭裁判所の審判(民法766条等)による解決が原則であり、人身保護法による救済は「子の幸福」の観点から明白な違法がある場合に限定される(補充性の強調)。乳児であっても「母性」を絶対視せず、具体的監護状況から「明白な不幸」があるかを厳格に判断する実務を確立した。
事件番号: 平成6(オ)65 / 裁判年月日: 平成6年4月26日 / 結論: 破棄差戻
夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求するに際し、他方の配偶者の親権の行使が家事審判規則五二条の二の仮処分等により実質上制限されているのに右配偶者がこれに従わない場合、又は幼児が、一方の配偶者の監護の下で安定した生活を送ることができるのに、他方の配偶者の監護の下においては著しくそ…