一、年令六年五月余の児童に対する監護は、人身保護法および同規則にいう拘束にあたる。 二、離婚した男女の間で、親権を有する一方が、他方に対し、人身保護法により、その親権に服すべき幼児の引渡しを求める場合には、請求者に幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでないかぎり、たとえ、拘束者において自己を監護者とすることを求める審判を申し立てまたは訴を提起している場合であり、しかも、拘束者の監護が平穏に開始され、かつ、現在の監護の方法が一応妥当なものであつても、当該拘束はなお顕著な違法性を失わないものと解するのが相当である。
一、年令六年五月余の児童に対する監護と人身保護法および同規則にいう拘束 二、離婚した当事者間の親権を有する一方から他方に対する人身保護法に基づく幼児引渡請求許否の判断基準
人身保護法2条,人身保護規則3条,人身保護規則4条
判旨
離婚した男女間において、親権を有する一方が他方に対し人身保護法に基づき幼児の引渡しを求める場合、請求者に引き渡すことが明らかに幼児の幸福に反しない限り、拘束には顕著な違法性が認められる。
問題の所在(論点)
人身保護法上の「拘束」および「顕著な違法性」(同規則4条)の存否。特に、意思能力のない幼児の監護が拘束に当たるか、また、親権者からの引渡し請求に対し、非親権者による監護がいつ顕著な違法性を有することになるかが問題となる。
規範
1. 意思能力のない幼児を監護する行為は、当然に身体の自由を制限する行為を伴うため、人身保護法・同規則にいう「拘束」に該当する。2. 親権者による引渡し請求に対し、相手方が幼児を留め置くことが「顕著な違法性」を有するか否かは、双方の監護の当否を比較衡量して判断する。3. 請求者に引き渡すことが明らかに幼児の幸福に反しない限り、拘束者の監護が平穏に開始され現在の監護方法が妥当であっても、当該拘束はなお顕著な違法性を失わない。
重要事実
離婚した男女間において、親権を有する一方(被上告人)が、他方(上告人)に対し、人身保護法に基づき、その親権に服すべき幼児(当時6歳5か月余)の引渡しを求めた。上告人は、自己を監護者とすることを求める手続を開始しており、かつ現在の監護も平穏に行われ妥当なものであると主張して争った。
あてはめ
被拘束者は6歳5か月余であり、意思能力のない幼児と認められるため、上告人の監護は「拘束」に当たる。次に違法性について検討するに、原審が認定した諸般の事情によれば、親権者である被上告人に引き渡すことが「明らかに幼児の幸福に反する」とは認められない。したがって、たとえ上告人の監護が平穏に開始され一応妥当なものであったとしても、親権者による正当な引渡し請求を拒むことは、顕著な違法性を有すると評価される。
結論
被上告人による引渡し請求を認容した原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
人身保護法による幼児引渡し請求のリーディングケース。親権者(法的な権利者)による請求を極めて強く保護しており、「明らかに幸福に反する」という高いハードルを課すことで、実質的な監護権争いを家庭裁判所の審判等に委ねる前に、まずは親権者への引渡しを優先させる枠組みを示した。
事件番号: 昭和53(オ)316 / 裁判年月日: 昭和53年4月7日 / 結論: 棄却
幼児を認知し、かつ、審判によりその親権者と定められた父が、右幼児を拘束する母に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡を求める場合には、請求者に右幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、たとえ、拘束開始当時には、右審判が拘束者のした即時抗告により未確定の状態にあり、拘束者がなお親権者の地位にあつて、請求…
事件番号: 昭和46(オ)760 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
夫婦関係の破綻に瀕した夫が子を拘束したのち約五か月を経て妻から人身保護請求による救済を求めた場合でも、判示の事情のもとでは、緊急性を欠くものではなく、救済を与えることができる。