離婚等の調停の期日において調停委員の関与の下に形成された夫婦間の合意によってその共同親権に服する幼児との面接が実現した機会をとらえて,夫婦の一方が実力を行使して右幼児を面接場所から自宅へ連れ去って拘束したなど判示の事情の下においては,右幼児が現に良好な養育環境の下にあるとしても,右拘束には,人身保護法二条一項,人身保護規則四条に規定する顕著な違法性があるというべきである。
離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方が右幼児を連れ去ってした拘束に顕著な違法性があるとして夫婦の他方からした人身保護法に基づく幼児の引渡請求が認められた事例
人身保護法2条1項,人身保護規則4条
判旨
父母間での幼児の引渡しを求める人身保護請求において、調停手続上の合意に基づく面接の機会に実力で幼児を連れ去った行為は、法律上正当な手続によらない顕著な違法性がある。現在の監護養育状況が良好であっても、拘束の顕著な違法性の判断は左右されない。
問題の所在(論点)
父母間における幼児の引渡し請求において、調停手続上の合意に基づく面接の機会を利用した連れ去り行為が、人身保護規則4条にいう「法律上正当な手続によらないことの顕著な違法性」を認める事由となるか。
規範
人身保護法に基づき幼児の引渡しを求める場合、拘束者による拘束が「法律上正当な手続によらないことが顕著である」必要がある。共同親権者間においては、拘束の態様、監護の継続性、子の幸福等の諸事情を考慮し、拘束が権利の濫用に当たり、子の幸福に反することが明白である場合にこの要件を満たす。特に、公的な手続上の合意を無視した実力行使による連れ去りは、手続的適正を著しく欠くものとして顕著な違法性を認めるべき判断要素となる。
重要事実
婚姻関係にある父母が別居し、母(上告人)が幼児二人を監護していた。離婚調停および面接交渉調停の過程で、調停委員の関与を経て「弁護士事務所で面接させる」旨の合意が成立した。しかし、父(被上告人)は面接中、外部に通じる扉を封鎖していた机を密かに除去して幼児一人を強引に連れ去った。その後、父は調停に出頭せず離婚調停は不成立となった。父側の監護環境は良好であったが、母側の監護環境も著しく不当とはいえない状況にあった。
あてはめ
被上告人の行為は、調停手続の進行過程で当事者の協議により形成された合意を実力で一方的に破棄するものであり、調停手続を無視し、これに対する上告人の信頼を踏みにじるものである。また、上告人が監護を継続することが著しく不当であることをうかがわせる事情も認められない。このような態様による拘束は、適正な手続を著しく逸脱しており、拘束者の監護環境が良好であるという事実があったとしても、その違法性を否定する根拠にはならないと解される。
結論
被上告人による拘束には、法律上正当な手続によらない顕著な違法性がある。したがって、本件人身保護請求を棄却した原判決は破棄され、差し戻されるべきである。
実務上の射程
共同親権者間における人身保護請求の限界(顕著な違法性)を画した事例である。現在の監護状況という「実体的な子の利益」だけでなく、連れ去りの態様という「手続的違法性」を重視した点に特徴がある。答案上では、連れ去り行為が「手続的合意」を破る悪質なものである場合に、実体的な養育環境の比較を待たずに違法性を認める論理として活用できる。
事件番号: 昭和53(オ)316 / 裁判年月日: 昭和53年4月7日 / 結論: 棄却
幼児を認知し、かつ、審判によりその親権者と定められた父が、右幼児を拘束する母に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡を求める場合には、請求者に右幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、たとえ、拘束開始当時には、右審判が拘束者のした即時抗告により未確定の状態にあり、拘束者がなお親権者の地位にあつて、請求…