一、意思能力のない幼児を監護することは、監護方法の当不当または愛情に基づく監護であるかどうかとはかかわりなく、人身保護法および同規則にいう拘束と解すべきである。 二、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として子に対する拘束状態の当不当を定め、その請求の許否を決すべきである。
一、意思能力のない幼児の監護と人身保護法および同規則にいう拘束 二、夫婦の一方から他方に対する人身保護法に基づく幼児引渡請求許否の判断基準
人身保護法2条1項,人身保護規則3条,人身保護規則4条
判旨
共同親権者間における幼児の引渡請求に関し、一方の監護が不穏当な手段によるものであり、かつ他方に監護されることが子の幸福に資することが明白な場合には、拘束の違法性が顕著であるとして人身保護法による救済が認められる。
問題の所在(論点)
共同親権者の一方が他方に対し、人身保護法に基づき幼児の引渡を請求できるか。特に、人身保護規則4条にいう「拘束の違法性が顕著であること」の要件をいかなる基準で判断すべきか。
規範
人身保護法に基づき幼児の引渡を請求する場合、拘束の違法性が顕著であることを要する(人身保護規則4条)。共同親権者間においては、他方の意思に反し適法な手続によらず子を排他的に監護することが適法な親権の行使といえず、かつ、当該監護状態よりも他の一方に監護されることが子の幸福に資することが明白であれば、拘束の違法性が顕著であると認められる。
重要事実
上告人と被上告人は夫婦であり、被拘束者は約1歳2ヶ月の幼女である。別居後、被拘束者は母(被上告人)のもとで養育されていたが、父(上告人)が不穏当な手段を用いて連れ去り、第三者に預けて監護を開始した。父はこれまで養育費の支出を拒み、子への愛情も乏しい態度を示していた一方、母は実母の協力を得て適切に養育していた。
事件番号: 昭和44(オ)698 / 裁判年月日: 昭和44年9月30日 / 結論: 棄却
一、夫婦関係が破綻に瀕している場合に、夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡を請求したときには、幼児の拘束がいかなる手段、方法により開始されたかということよりも、幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるかを主眼として、その拘束の違法性の有無を判定し、右請求の許否を決すべきであ…
あてはめ
上告人は、母の意思に反し不穏当な手段で連れ去っており、排他的監護の態様が不当である。また、上告人は経済的支援を拒み愛情も欠如しているのに対し、被拘束者は2歳未満の幼女であって、これまで安定的に監護してきた母の膝下に戻すことが子の幸福に適うことは明白である。したがって、上告人による監護は適法な親権行使の範囲を逸脱しており、拘束の違法性が顕著であるといえる。
結論
被上告人による引渡請求を認容した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
共同親権者間の引渡請求では、家事事件手続による解決が原則であるが、本判例は「子の幸福」の観点から明白な優劣がある場合に限り、例外的に人身保護法による迅速な救済を認める枠組みを示したものである。後の判例により、拘束の違法性はより厳格に解釈される傾向にある点に注意を要する。
事件番号: 昭和46(オ)760 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
夫婦関係の破綻に瀕した夫が子を拘束したのち約五か月を経て妻から人身保護請求による救済を求めた場合でも、判示の事情のもとでは、緊急性を欠くものではなく、救済を与えることができる。