原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の被拘束者に対する拘束は、人身保護規則四条にいう拘束が権限なしにされ、又は法令の定める方式、手続に著しく違反していることが顕著な場合にあたると解するのが相当である。
人身保護事件の確定判決を不服として子を暴力で奪い去つた実母に対する事実上の養親からの人身保護請求が認容された事例
人身保護法2条,人身保護規則4条
判旨
意思能力のない幼児の監護は、法律上の監護権の有無にかかわらず人身保護法上の「拘束」に該当し、親権者による監護であっても、奪取の態様や裁判所の命令への不服従などの事情から正当な限度を超え、被拘束者の幸福に反する場合には、顕著な違法性が認められる。
問題の所在(論点)
法律上の親権者(実母)による幼児の監護が、人身保護規則4条にいう「拘束」に該当し、かつその拘束に「顕著な違法性」が認められるか。
規範
意思能力のない幼児を監護することは、当然に身体の自由を制限する行為を伴うため、監護権の有無にかかわらず人身保護法・同規則にいう「拘束」にあたる。また、その拘束に「顕著な違法性」(規則4条)があるか否かは、被拘束者である幼児の幸福を主眼とし、監護開始の経緯、これまでの養育状況、現在の監護態様、及び司法手続の軽視等の諸事情を総合して判断すべきである。
重要事実
生後間もなく実母(上告人)から被上告人夫婦に引き渡された幼児が、約3年間嫡出子として平穏に養育されていた。実母は親子関係不存在の審判確定後、自らの人身保護請求が棄却されたにもかかわらず、力ずくで幼児を強奪し、その後の居所も隠匿した。さらに、実母は裁判所による拘束場所開示命令にも応じなかった。これに対し、それまで養育していた被上告人らが幼児の救済を求めて人身保護請求を申し立てた。
あてはめ
まず、幼児の監護は身体自由を制限するため「拘束」にあたる。次に違法性について、上告人は法律上の親権者ではあるが、3年余り継続した被上告人らの養育による法的安定を「力ずくの奪取」という非法な手段で突如破壊した。また、裁判所の命令に反して居所を秘匿し続ける態度は、親権行使の正当な限度を逸脱している。これらは被拘束者である幼児の幸福を著しく害するものであり、家庭裁判所の審判を待たずとも、現時点での拘束には顕著な違法性が認められる。
結論
上告人(実母)による拘束は、人身保護規則4条にいう顕著な違法性がある場合に該当するため、救済請求を認容し幼児を引き渡すべきとした原判決は正当である。
実務上の射程
親権者による拘束であっても、人身保護法による救済が可能であることを示した重要判例。特に、監護権のない第三者が長年養育していた事実や、実親による奪取の態様の悪質性、司法手続の無視といった事情が「顕著な違法性」を基礎付ける重要な考慮要素となる。答案上は、子の福祉を最優先する視点から、拘束の態様を具体的に評価する枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和53(オ)316 / 裁判年月日: 昭和53年4月7日 / 結論: 棄却
幼児を認知し、かつ、審判によりその親権者と定められた父が、右幼児を拘束する母に対し、人身保護法に基づいて幼児の引渡を求める場合には、請求者に右幼児を引き渡すことが明らかにその幸福に反するものでない限り、たとえ、拘束開始当時には、右審判が拘束者のした即時抗告により未確定の状態にあり、拘束者がなお親権者の地位にあつて、請求…
事件番号: 昭和44(オ)698 / 裁判年月日: 昭和44年9月30日 / 結論: 棄却
一、夫婦関係が破綻に瀕している場合に、夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき共同親権に服する幼児の引渡を請求したときには、幼児の拘束がいかなる手段、方法により開始されたかということよりも、幼児を夫婦のいずれに監護させるのが幼児のために幸福であるかを主眼として、その拘束の違法性の有無を判定し、右請求の許否を決すべきであ…