一 法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されている者について、人身保護法によつて救済を請求することができるのは、その拘束または拘束に関する裁判若しくは処分が権限なしになされまたは法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著な場合に限られる 二 人身保護制度は、同棲関係のあつた婦女の連れ子として幼児を養育していた者から、その幼児を連れ去つて監護養育している幼児の祖父母につき、養育監護者としての適否を争つて幼児の釈放と引渡を求める場合にも適用があり、その請求についても、人身保護規則第四条本文の制約が適用されるものと解すべきである 三 同棲関係のあつた婦女の連れ子として幼児を養育していた者から、その幼児を連れ去つて監護養育している幼児の祖父母に対し幼児の釈放と引渡を求めた場合、祖父が幼児の後見人となつている原審判示の場合(原判決理由参照)には、幼児を連れ去つたことが穏当を欠くとの一事によつては、現に行われている拘束が権限なしにされまたは法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著なものと断定することはできない
一 人身保護法による救済請求の要件 二 幼児の引渡請求と人身保護制度 三 人身保護規則第四条にいわゆる「顕著である」場合か否かの判定
人身保護法2条,人身保護規則4条
判旨
人身保護法による救済は、拘束又は拘束に関する裁判・処分が権限なしにされ、又は法令の定める方式・手続に著しく違反していることが顕著な場合に限られる。幼児引渡についても本要件が適用され、実力による奪い去りがあっても、現に拘束者が後見人等の正当な権限を有し、被拘束者が平穏に養育されているならば、拘束の顕著な違法性は認められない。
問題の所在(論点)
人身保護法2条、人身保護規則4条にいう拘束の「違法性の顕著性」の判断基準。特に、正当な監護権限(後見人)を有する者が幼児を実力で連れ去った場合、その後の監護状態が平穏であれば、なお不法な拘束の顕著性が認められるか。
規範
人身保護法2条、人身保護規則4条に規定される救済要件について、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分が「権限なしになされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著な場合」に限り、救済を請求することができる。人身保護制度は民事・刑事の通常裁判とは異なる非常応急的な特別の救済方法であり、その請求は訴えの提起や上訴に代わるものではないことから、不適法な拘束の顕著な存在が求められる。
重要事実
アメリカ国籍の請求者(上告人)は、事実上の妻であった亡Eの連れ子(被拘束者、当時6歳)を約4年間養育していた。一方、Eの実父母である被上告人らは、被拘束者の実の祖父母であり、その一人は後見人に選任されていた。被上告人らは、請求者と幼児引渡を巡る訴訟の係属中、幼稚園からの帰宅途中であった被拘束者を実力で自動車に乗せて連れ去り、自己の住居にて監護を開始した。請求者はこれを不当な拘束として人身保護請求を行った。
あてはめ
幼児監護には性質上ある程度の拘束が伴うが、本件拘束者は幼児の祖父母かつ後見人という強力な法的地位を有している。原審の認定によれば、被拘束者は現在、拘束者のもとで兄と共に平穏かつ不自由なく、愛情をもって養育されている。被上告人らが実力をもって被拘束者を連れ去った点に穏当を欠く面があるとしても、それのみをもって、現に行われている拘束が「権限なし」または「著しい法令違反」であることが顕著であると断定することはできない。したがって、本件拘束に顕著な違法性は認められない。
結論
本件人身保護請求は理由がない。幼児引渡を請求する実体法上の理由は、民事訴訟等の別個の手続において主張されるべきである。
実務上の射程
人身保護規則4条の「顕著性」を、実体判断(請求の理由の有無)の要件として位置づけた。幼児引渡事件において、連れ去りの態様(手続の違法)よりも、現在の監護状態や監護権限の有無を重視し、制度の「非常応急性」を強調する。実務上は、監護権原がない者による拘束や、被拘束者の幸福が著しく害されている等の特段の事情がない限り、本法による救済は極めて限定的であると解される。
事件番号: 昭和43(オ)1331 / 裁判年月日: 昭和44年4月3日 / 結論: 棄却
夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として子に対する拘束状態の当不当を定め、その請求の許否を決すべきである。