家屋の賃借権の存否につき争いがある場合において、家屋の所有者が家賃の弁済として家屋の占有者から供託された金員の還付を受けた事実があつても、右家屋の所有者が右占有者に対しその当時まで一度も右家屋を賃貸したことがなく、また、右家屋の所有者が、右供託金の還付を受けた日時の前後を通じ、右占有者が何らの権原もなく右家屋を占有していると主張して、その明渡等を求める訴訟を続けていたときには、右供託金の還付を受けた事実をもつて、右家屋を賃貸することを承認したものとはいえない。
家屋の賃借権の存否につき争いがある場合において家屋の所有者が家賃の弁済として供託された金員の還付を受けたときの効果
民法494条,民法601条
判旨
建物の占有者が賃料相当額を供託し、賃貸人がその還付を受けたとしても、賃貸人が占有者の不法占有を主張して明渡請求訴訟を継続している等の事情がある場合には、直ちに賃貸借契約の成立を承認したとは解されない。
問題の所在(論点)
賃貸人が、建物の占有者による賃料名目の供託金を還付したという事実から、民法601条に基づく賃貸借契約の成立(または賃貸の承認)が認められるか。
規範
賃貸借契約の成否は、当事者間の合意の有無によって決せられるべきであり、賃料名目での金員の受領(供託金の還付)があったとしても、その受領が契約関係の存在を承認する趣旨で行われたと認められない特段の事情がある場合には、賃貸借契約の成立を認めることはできない。
重要事実
建物の貸主(被上告人)は、訴外Dとの間で賃貸借契約を締結したが、D以外の第三者(上告人)が当該建物で喫茶店を経営し、占有していた。上告人は賃料相当額を供託し、被上告人はその還付を受けたが、還付の前後を通じて、被上告人は上告人を不法占有者であるとして建物の明渡等を求める訴訟を継続していた。上告人は、賃料支払の事実や供託金の還付をもって、被上告人との間に賃貸借契約が成立したと主張した。
あてはめ
本件において、被上告人は一貫して上告人を権原のない不法占有者であると主張し、現に明渡請求訴訟を継続していた。このような状況下での供託金の還付は、不法占有に伴う損害賠償金等の趣旨で受領されたものと解するのが合理的であり、上告人との間に新たな賃貸借契約を締結する、あるいは賃貸を承認する意思があったとは認められない。また、上告人が自己の名義で経営し賃料を支払っていたとしても、それは真の借主であるDの使者や代理人としての行為、あるいはその計算においてなされたものと解することが可能であり、契約当事者の切り替えを意味するものではない。
結論
被上告人が供託金の還付を受けたという一事をもって、直ちに上告人に対する賃貸を承認したものとは解されず、賃貸借契約の成立は認められない。
実務上の射程
賃貸借契約の存否が争点となる事案において、賃料名目の金員受領が「黙示の契約成立」や「追認」を意味するかが問われる際に有用。明渡訴訟の継続や一貫した拒絶の態度は、契約成立を否定する強力な評価事実となる。
事件番号: 昭和38(オ)567 / 裁判年月日: 昭和39年9月22日 / 結論: 棄却
建物明渡義務不履行による損害金の請求を受ける被告側で当該建物に対する地代家賃統制令適用の基礎たる事実関係を主張立証しない以上、右損害金算定の基礎として相当賃料を認定するにあたり同令の適用を顧慮しなかつたとしても違法といえない。