判旨
賃貸借存在の抗弁において、賃料(対価)としての事実が否定された場合、当事者が主張していない使用貸借の成立を弁論の全趣旨に基づき認定することはできない。
問題の所在(論点)
被告側が賃貸借(有償)の抗弁を主張している場合に、対価性が否定された際、裁判所が弁論の全趣旨等から使用貸借(無償)の成立を認定して占有権原を認めることができるか。弁論主義の適用範囲が問題となる。
規範
民事訴訟における弁論主義の原則に基づき、裁判所は当事者の主張しない事実を基礎に判決を下すことはできない。特に、賃貸借という有償契約の抗弁が提出されている場合において、その対価(賃料)性が否定されたとき、当事者の主張がない限り、無償契約である使用貸借の成立を認めることは許されない。
重要事実
上告人は、本件物置および宅地について、昭和17年中に野菜類を対価として交付する旨の賃貸借の話合が成立したと主張し、占有権原を争った。しかし、原審は適法な証拠に基づき、野菜類の供与が対価としてなされた事実を全面的に否定した。記録上、被上告人側からは賃貸借の抗弁のみが提出されており、使用貸借の事実は主張されていなかった。
あてはめ
本件において、上告人が主張する野菜類の交付は賃貸借成立の前提となる「対価」としての性質を持つものであったが、証拠上その事実は否定された。対価性が否定された以上、賃貸借の抗弁は成立しない。また、訴訟記録および弁論の全趣旨を精査しても、当事者は使用貸借の成立を主張しておらず、賃貸借の成立に至る過程の一部としての主張に留まっている。したがって、当事者が主張しない使用貸借の権原を、裁判所が独自に認定することは弁論主義に反し認められない。
結論
本件賃貸借存在の抗弁は否定されるべきであり、使用貸借を認めることもできないため、上告を棄却する。
実務上の射程
弁論主義の第1テーゼ(主張責任)を確認する事案。賃貸借と使用貸借は性質を異にする別個の法類であるため、賃貸借の主張に使用貸借の主張が当然に含まれるわけではないという、実務上の主張立証の厳格性を示す指標となる。
事件番号: 昭和37(オ)733 / 裁判年月日: 昭和38年1月17日 / 結論: 棄却
裁判所が不法行為であると判断する場合に、それが故意によるか過失に基づくかを当事者をして主張させなくても弁論主義に反しない。