裁判所が不法行為であると判断する場合に、それが故意によるか過失に基づくかを当事者をして主張させなくても弁論主義に反しない。
不法行為における故意か過失かの主張の不明確と弁論主義違背の有無。
民訴法186条,民法709条
判旨
占有が不法行為によって始まった場合には、民法295条2項の類推適用により留置権の成立が否定される。また、裁判所が当該占有を不法行為と認定するにあたり、当事者が過失の存在を具体的に主張していない場合でも、弁論主義に反するものではない。
問題の所在(論点)
留置権の不成立要件としての「不法行為によって始まった場合」(民法295条2項)の認定において、当事者が過失の存在を具体的に明示していない場合に、裁判所が不法行為による占有と認定することは弁論主義に反するか。
規範
民法295条2項は「占有が不法行為によって始まった場合」には留置権が成立しない旨規定する。同条項の趣旨は、公平の観点から不法な占有取得者に留置権を認めるべきではないという点にある。また、訴訟上において、ある行為が不法行為に該当するか否かを判断するにあたっては、裁判所は当事者に故意または過失の別を個別に主張させる必要はなく、一連の主張から不法性が認められれば足りる。
重要事実
上告人は本件家屋を占有し、これについて留置権の抗弁を主張した。これに対し被上告人(第一審原告)は、上告人の占有開始自体が不法行為に該当するものであると主張した。しかし、被上告人は当該不法行為が「過失」に基づくものであるという具体的な過失の主張までは行っていなかった。原審がこの占有を不法行為によるものと認定して留置権の抗弁を排斥したため、上告人が弁論主義違反を理由に上告した。
あてはめ
記録によれば、被上告人は上告人の占有開始が当初から不法行為である旨を一貫して強く主張している。裁判所が当該行為を不法行為であると評価する場合、それが故意によるか過失によるかは裁判所の法的評価の範囲内であり、当事者に対してその区別をあえて主張させるべき性質のものではない。したがって、過失の個別主張が欠けていても、不法行為による占有開始という事実認定を妨げるものではないと解される。
結論
本件占有は不法行為によって始まったものと認められ、民法295条2項により留置権の成立は否定される。弁論主義違反の主張は採用できない。
実務上の射程
留置権の抗弁に対する再抗弁(民法295条2項)として極めて重要な判例である。実務上、占有の不法性を主張する際には、具体的事実関係から不法行為を基礎付ける事実を摘示すれば足り、過失等の法的評価に関する詳細な個別主張がなくても裁判所による認定が可能であることを示している。
事件番号: 昭和29(オ)598 / 裁判年月日: 昭和31年9月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有者が自ら賃貸借契約の成立を主張して占有権原を基礎付けようとした場合において、その事実が認められないときは、当該占有は正当な権原に基づかない不法占有と判断される。 第1 事案の概要:上告人は、昭和26年9月1日以降、本件家屋において料亭を経営し占有していた。上告人は原審において、当該占有は同年8…