原審の確定した事実関係、ことに本件贈与に至る経緯、その後の事情、さらに乙がその贈与物件である農地の引渡を受けて甲方から経済的に独立した後右農地を耕作してその生活の主な基盤としてきたこと、右農地の所有権移転の許可を得るについて格別障害となるような事由はない等の諸点を総合すると、甲が自ら知事に対する許可の申請を怠りながら、その許可の未了を理由に一旦引渡まで済ませた農地の返還を求めることは権利濫用として許されない。
知事の許可のない贈与契約に基づき引き渡された農地の返還請求が権利の濫用として許されないとされた事例
農地法3条,民法1条
判旨
農地の贈与者が、自ら農地法上の許可申請を怠りながら、許可未了を理由に既受贈者へ引き渡した農地の返還を求めることは、信義則に反し権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
農地法上の許可が必要な農地の贈与において、贈与者が許可申請義務を怠りながら、許可未了を理由に土地の返還を求めることが、権利の濫用に該当するか。
規範
権利の行使が誠実なものといえない場合には、権利の濫用(民法1条3項)として、その行使が否定される。具体的には、原因行為(贈与等)の経緯、その後の利害関係の推移、義務履行への協力状況、及び権利行使によって相手方が受ける不利益等を総合的に考慮して判断する。
重要事実
上告人は、被上告人らに対し本件各土地を贈与し、現実に引き渡した。被上告人らは上告人から経済的に独立し、当該農地を耕作して生活の主要な基盤としてきた。本件農地の所有権移転の許可(農地法3条)を得るにあたって格別な障害はない状況であったが、贈与者である上告人は自ら北海道知事に対する許可申請の手続を怠っていた。その後、上告人は許可が未了であることを理由に、所有権に基づき被上告人らに対して土地の返還を求める反訴を提起した。
あてはめ
上告人は贈与契約に基づき、被上告人らの生活基盤となる農地を引き渡している。許可申請に格別な障害がないにもかかわらず、上告人が自らその申請を怠り、その不備を奇貨として返還を求めることは、自らの不誠実な行為を前提とした主張である。被上告人らにとって当該土地は主要な生活基盤であり、返還を認めることは過酷である。したがって、このような上告人の請求は「権利の誠実な行使」とは認められない。
結論
上告人による本件各土地の引渡請求は、権利の濫用として許されない。
実務上の射程
農地法上の許可を条件とする契約において、条件成就を妨げている当事者がその条件未成就を理由に権利主張する場合、民法130条(条件成就の擬制)の類推適用や、本判例のような権利濫用・信義則の理屈で封じることが可能である。答案では、当事者間の公平や信義則の観点から「権利の誠実な行使」といえるかを検討する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)1053 / 裁判年月日: 昭和37年5月29日 / 結論: 破棄自判
農地の売買において知事の許可のない間に農地の引き渡しがなされた場合、その引渡を受けた者は、右知事の許可のない間は、売買契約による債務の履行として引渡を受けたことを理由に、右農地の返還請求を拒むことは許されない。
事件番号: 昭和43(オ)523 / 裁判年月日: 昭和43年11月1日 / 結論: その他
上告審において、反訴を提起することは、許されない。