一 家事調停による農地の所有権移転については、知事の許可を要する。 二 遺産分割の家事調停において、相続人らから利害関係人たる相続放棄者に対して農地を贈与する旨の調停条項が成立したとしても、右条項による権利移転は、農地法第三条第一項但書第七号所定の遺産分割による場合に当らない。
一 家事調停による農地の所有権移転と知事の許可の要否 二 相続人らからの相続放棄者に対する家事調停による農地贈与と農地法第三条第一項但書第七号
農地法3条1項但書5号,農地法3条1項但書7号,民法919条1項
判旨
一度受理された相続放棄の撤回は民法919条1項により許されず、また家事調停による農地の権利移転は農地法3条1項但書所定の例外事由には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 受理された相続放棄を撤回し、遺産分割と同様の実質を持つ贈与として農地を取得できるか(農地法3条1項但書7号の準用の成否)。2. 家事調停による農地の権利移転は、農地法3条1項但書5号(農事調停)に準じ、知事許可を不要とする例外に含まれるか。
規範
1. 民法919条1項の規定に照らし、一度受理された相続放棄を撤回することは許されない。2. 家事調停と農事調停(農地法3条1項但書5号)は制度を異にするため、家事調停による農地の権利移転に同条項の例外規定を準用することはできない。
重要事実
被上告人は一旦相続放棄をしたが、その後に贈与や家事調停を経て農地の所有権を取得しようとした。原審は、この実質が相続放棄の撤回や遺産分割、あるいは農事調停による権利取得と異ならないとして、農地法3条1項所定の知事許可を不要と判断したため、上告人がこれを不服として争った。
あてはめ
1. 民法919条1項は相続放棄の撤回を禁じている。本件贈与が相続放棄の撤回と同視できるとしても、法律上許されない以上、相続による取得と同視して同法3条1項但書7号(相続等)を準用することはできない。2. 同法3条1項但書5号が掲げる「民事調停法による農事調停」と「家事調停」は別個の制度である。両者を実質的に同視して許可を不要とすることは、農地の権利移動を規制する同法の趣旨に反し認められない。
結論
受理された相続放棄の撤回は認められず、また家事調停による農地の取得も農地法3条1項の許可を要する。知事許可の有無を審理せずに有効とした原判決には審理不尽・理由不備の違法がある。
実務上の射程
相続放棄の撤回不可の原則を明確にした点、および農地法の許可例外事由(3条1項但書各号)の解釈を厳格に行い、類推適用を否定した点に意義がある。答案では、農地の権利移転の有効性を検討する際の前提として、相続放棄の効力の不可逆性や許可例外の限定性を指摘する際に用いる。
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