旧建物が取りこわされて滅失し、すでに存在せず、同じ土地上に建築されている新建物とは同一性がなく、しかも新建物については、すでに甲名義の保存登記が了されている場合には、甲は旧建物の登記簿上の所有名義人である乙に対して旧建物の滅失登記手続をなすべきことを訴求する利益はないというべきである。
滅失登記手続をなすべきことを訴求する利益はないとされた事例
不動産登記法93条ノ6,不動産登記法25条ノ2,民訴法2編1章(訴)
判旨
建物が滅失した場合の滅失登記は、登記官が職権で行うべき表示に関する登記であるため、利害関係人が他方当事者に対してその手続を訴求する利益はない。
問題の所在(論点)
建物が既に滅失し、かつ同一性のない新建物の保存登記がなされている場合において、旧建物の滅失登記手続を私法上の請求権に基づき訴求できるか(訴えの利益の有無)。
規範
建物の滅失登記は、不動産登記法(旧法93条の6等、現法36条・57条)上の表示に関する登記であり、登記官が職権をもって調査してなすべき性質のものである。したがって、建物が滅失し同一性が失われた場合、当該登記の抹消(滅失登記)を相手方に求める給付の訴えについては、訴えの利益が認められない。
重要事実
上告人は、昭和9年頃に旧建物を取り壊して滅失させた。その後、同じ土地上に新建物を建築し、これについて上告人名義の保存登記を完了した。一方で、登記簿上には依然として旧建物の登記が残っていたため、上告人は被上告人に対し、当該旧建物の滅失登記手続をなすべきことを求めて提訴した。
あてはめ
本件旧建物は既に取り壊されて滅失しており、現存する新建物との同一性も認められない。このような場合、なされるべきは建物の表示に関する登記(滅失登記)である。これは、法に基づき登記官が職権をもって行うべき事務である。たとえ法が一定の者に申請義務を課しているとしても、それは登記官の職権発動を促す趣旨にすぎず、他方当事者に対してその手続の履行を求める権利を基礎付けるものではない。よって、本件請求は訴えの利益を欠く。
結論
上告人が被上告人に対して滅失登記手続を訴求する利益はなく、請求は認められない。
実務上の射程
権利に関する登記の抹消請求(民法上の妨害排除請求権等)とは異なり、表示に関する登記については報告的な性質が強いため、民事訴訟で給付を求める対象にはならない。実務上は、登記官に対する申出や職権発動の催告によって解決すべき問題であることを示している。
事件番号: 昭和42(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権担保のため、甲乙丙不動産につき停止条件付代物弁済契約がされるとともに、所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、債権者が甲不動産を代物弁済により所有権を取得し、それに基づいて所有権移転登記を経由したにすぎないときは、その後乙不動産につき所有権移転請求権保全の請求権を譲り受けた者がした代物弁済による…
事件番号: 昭和38(オ)1112 / 裁判年月日: 昭和40年5月4日 / 結論: 棄却
滅失建物の登記をその跡地に新築された建物の所有権保存登記に流用することは、許されない。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和42(オ)524 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。