滅失建物の登記をその跡地に新築された建物の所有権保存登記に流用することは、許されない。
滅失建物の登記を新築建物の所有権保存登記に流用することの可否。
民法177条,不動産登記法93条,不動産登記法93条ノ6,不動産登記法100条
判旨
建物が滅失し、その跡地に新たな建物が建築された場合、旧建物の登記を新建物の登記として流用することは、不動産登記制度の本質および公示性に反し、無効である。
問題の所在(論点)
建物が滅失し、その跡地に同様の建物が新築された場合に、旧建物の登記を新建物の登記として流用(表示の変更登記を含む)することの可否、およびその登記の効力が問題となる。
規範
建物が滅失した場合、旧建物の登記簿は滅失登記により閉鎖し、新建物については新たな所有権保存登記をなすべきである。旧建物の既存の登記を新建物に流用することは、真実に符号しないのみならず、二重登記の発生や権利関係の錯雑を招き、不動産登記の公示性を乱すおそれがあるため、制度の本質に反し無効である。たとえ表示の変更登記により現況と合致させたとしても、その効力は認められない。
重要事実
訴外Dは、自己所有の建物を建築するために従前の建物を取り壊し、その跡地に新たな建物を建築した。Dは旧建物の滅失登記を行わず、旧建物の所有権登記を新建物に流用し、上告人のために代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記および本登記を了した。その後、表示の変更登記により登記簿の表題部を新建物の構造・坪数に合致させる変更も行われた。
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
あてはめ
本件建物は旧建物を取り壊した後に新築された全く別の不動産である。不動産登記法上、不動産の同一性は物理的性質により定まるため、滅失した旧建物の登記はもはや存在しない不動産を対象とする無効なものとなっている。流用後に表示の変更登記を行って外形的に新建物の構造や坪数に合わせたとしても、登記の基礎となる不動産自体の同一性が欠如している以上、当該登記に有効な公示力を認めることはできない。
結論
旧建物の登記を新建物に流用した登記は無効であり、上告人は当該登記に基づき所有権を主張することはできない。上告棄却。
実務上の射程
建物の流用登記が無効であることは、民法上の物権変動の公示原則および不動産登記法の根本原則として確立した判例法理である。抵当権の設定や所有権移転の局面で、実務上、建物建て替え後の登記流用がなされていないかを確認する際の根拠となる。一方で、土地の無効登記の流用(登記名義の流用)については、利害関係人が現れる前であれば追認等により有効となる余地があるとする判例があるが、建物の滅失・新築という客体の入れ替わりを伴う本件のようなケースでは、絶対的に無効とされる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和44(オ)183 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
旧建物が取りこわされて滅失し、すでに存在せず、同じ土地上に建築されている新建物とは同一性がなく、しかも新建物については、すでに甲名義の保存登記が了されている場合には、甲は旧建物の登記簿上の所有名義人である乙に対して旧建物の滅失登記手続をなすべきことを訴求する利益はないというべきである。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。