農地の二重売買において、売主が一方の買主のために所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、さらに右買主がこれを第三者に転売しても、売主の他方の買主に対する債務は履行不能とならない。
農地の二重売買において売主の一方の買主に対する債務が履行不能とならないとされた事例
民法415条
判旨
農地の売主が、第三者に当該農地を二重に売却し、当該第三者のために所有権移転請求権保全の仮登記を経由したとしても、直ちに当該売主の債務が履行不能に確定したとはいえない。
問題の所在(論点)
農地の二重売買において、売主が第二買受人のために所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、さらに第二買受人がこれを転売した場合、第一買受人に対する売買契約上の債務は履行不能(民法412条の2第1項、旧法415条後段)となるか。
規範
契約に基づく債務が履行不能といえるためには、社会通念上、債務の履行が不可能であることが確定していることを要する。不動産の二重譲渡において、後買者のために仮登記が経由されたにとどまる段階では、売主が依然として後買者との契約を解消し、あるいは仮登記を抹消して前買者への履行を完了させる余地が残されているため、原則として履行不能とは断定できない。
重要事実
被上告人(売主)らは、上告人(買主)との間で本件農地の売買契約を締結したが、その後、同一農地を訴外Dに売り渡し、Dのために所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。さらに、Dは当該農地を訴外Eに売り渡した。上告人は、被上告人らに対し、履行不能に基づく損害賠償(填補賠償)を請求した。
あてはめ
本件において、被上告人らがDに農地を売却し、仮登記を経由した事実は認められる。しかし、仮登記はあくまで順位を保全する効力を有するにとどまり、本登記がなされるまでは所有権が完全に移転したわけではない。また、DからEへの転売がなされたとしても、被上告人らがDとの売買契約を解除し、あるいはD・Eの協力により仮登記を抹消することは法理上可能である。農地法5条所定の許可を得るについても、仮登記抹消前であっても許可申請自体が不可能となる根拠はない。したがって、社会通念上、被上告人らの債務が履行不能に至ったとは認められない。
結論
売主が第三者に農地を二重売却して仮登記を経由したとしても、履行不能には当たらず、履行不能を理由とする損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
不動産の二重譲渡が履行不能となる時期について、判例は一貫して「後買者への本登記完了時」としている。本判決はこの原則を農地売買および仮登記の事案についても確認したものである。答案上は、履行不能の成否が問題となる場面で、単なる仮登記の存在のみでは「確定的な不能」とはいえないことを指摘する際に用いる。
事件番号: 昭和61(オ)532 / 裁判年月日: 昭和63年12月1日 / 結論: 棄却
先に登記を経由した抵当権者に対抗することができないために競売手続において抹消された所有権に関する仮登記の権利者は、仮登記の後に登記を経由した抵当権者に対して、不当利得を理由として、その者が交付を受けた代価の返還を請求することはできない。
事件番号: 昭和34(オ)217 / 裁判年月日: 昭和36年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係にある双務契約において、債務の履行場所について明黙の合意が認められる場合、その場所において履行の提供をなさなければ、相手方を履行遅滞に陥らせることはできない。 第1 事案の概要:上告人(売主)と被上告人(買主)は、山林の売買契約を締結し、売買残代金180万円を山林の所有権移転登記と引…