採石権の設定された山林の所有権が第三者に譲渡されても、その所有権移転登記手続を了しない間は、採石権者は、右採石権の設定登記手続を経ていなくても、右山林所有権の譲渡によりただちにその採石権の行使が不能となつたとすることはできない。
採石権の行使が不能になつたとはいえないとされた事例
民法177条,採石法4条
判旨
採石権は物権として地上権に関する規定が準用されるため、設定登記を経ていれば第三者に対抗可能である。したがって、目的物の譲渡により採石が不能になったというためには、採石権の設定登記および譲受人の所有権移転登記の有無を確認しなければならない。
問題の所在(論点)
土地所有者が採石権を設定した後に当該土地を第三者に譲渡した場合、直ちに採石権に基づく採石が「不能」になったと断定できるか。採石権の対抗要件および不動産二重譲渡と同様の法理が適用されるかが問題となる。
規範
採石法上の採石権は、物権として地上権に関する規定が準用される(同法4条)。したがって、不動産に関する物権変動の一般原則に基づき、採石権の設定については登記(民法177条、不動産登記法)を備えれば、第三者に対してその取得を対抗することができる。また、土地所有権の譲受人が採石権者に対してその権利を主張するためには、所有権移転登記を備える必要がある。
重要事実
上告人(土地所有者)は、被上告人に対し、本件山林の一部における黒御影石材の採掘権(採石権)を期間10年、対価20万円で設定し、被上告人は対価を支払った。しかし、上告人はその約2週間後、本件山林全部を第三者Dに売り渡した。原審は、山林が譲渡された事実のみをもって、被上告人の採石が不能になったと判断し、上告人に損害賠償を命じた。なお、記録上、被上告人の採石権設定登記も、Dへの所有権移転登記も未了である事実がうかがわれる状態であった。
あてはめ
採石権は物権的性質を有するため、被上告人が設定登記を備えていれば、土地の譲受人Dに対抗できる。一方で、譲受人Dも自らの所有権取得を被上告人(採石権者という正当な取引関係に立つ第三者)に対抗するためには、登記が必要である。原審は、これらの登記の有無、すなわち対抗関係の成否を確定させることなく、単に土地が譲渡されたという事実のみから「採石不能(履行不能)」と結論づけている。これは民法177条および採石法4条の解釈を誤り、審理を尽くしていないものといえる。
結論
山林の譲渡によって直ちに採石が不能になるとは限らない。採石権設定登記および所有権移転登記の有無を確認し、対抗関係を画定させた上で、被上告人がDに採石を対抗できない場合に初めて不能の成否を判断すべきである。
実務上の射程
物権的性質を持つ権利(採石権や地上権等)が設定された不動産が二重に処分された場合、債務不履行(履行不能)の成否は、単なる処分事実ではなく、対抗要件の具備状況によって決まるという準則を示す。実務上は、登記の前後により権利の優劣が決まるため、不能を理由とする損害賠償請求を行う際は、自らの対抗要件欠如と相手方の対抗要件具備を主張・立証する必要がある。
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…