家屋の共同賃借人のうち中心的地位にある一人が右家屋の明渡をめぐる紛争から賃貸人と口論したあげく同人に重傷を負わせたうえ、ガレージを無断築造する等判示の事情がある場合には、賃貸人は、即時右賃貸借契約を解除しうるものと解すべきである。
家屋の賃借人の賃貸人に対する傷害行為が他の債務不履行とあいまつて賃貸借契約の即時解除の原因となるとされた事例
民法541条
判旨
共同相続人である賃借人の一人が、明渡紛争に端を発して賃貸人に傷害を負わせ、かつ無断築造等の義務違反行為を主導した場合において、他の相続人がこれに無関心な態度をとり続けたときは、賃借人全員に対する信頼関係の破壊を理由とする即時解除が認められる。
問題の所在(論点)
共同相続された賃借権において、一部の相続人が背信行為を行い、他の相続人がこれに無関心または同調する態度をとった場合、賃借人全員に対する信頼関係破壊を理由とする無催告解除(即時解除)が認められるか。
規範
賃貸借契約は当事者間の個人的信頼関係を基礎とする継続的契約である。賃借人に背信的行為があった場合、催告を要せず即時に解除することができる。また、賃借権を共同相続した複数人のうち、代表的存在が背信行為を行い、他の相続人もそれに対し是認・放置する態度をとるなど、将来にわたって誠実な義務履行を期待し得ない事情があるときは、賃借人全員に対する解除原因となり得る。
重要事実
本件建物の元賃借人Dが死亡し、長男Aを含む上告人らが賃借権を共同相続した。Aは家族の中心・代表的存在であったが、建物の明渡をめぐる紛争の際、賃貸人側に対し傷害行為に及んだ。他の上告人らは当該傷害に対する謝罪や損害賠償に全く無関心な態度をとった。さらに、Aが主体となって無断でガレージを築造し、賃貸人からの抗議に対しても上告人ら全員で拒絶し続けた。
事件番号: 昭和43(オ)362 / 裁判年月日: 昭和43年9月12日 / 結論: 棄却
賃貸借が裁判所の調停によつて成立し、その調停条項中には無断転貸禁止の条項があつたばかりでなく、賃借人に中間利得があり、賃貸人が本件解除前あらかじめ転借人に無断転借は承認できない旨を告知している等原審認定の諸事実(原判決理由参照)があれば、賃借人の義務違反の程度は強く、本件家屋の一部転貸が背信行為に当らないとはいえない。
あてはめ
まず、代表的存在であるAによる傷害行為は、建物の用法違反に留まらず、賃貸借の存続を困難にする著しい背信行為である。これに対し、他の相続人らも謝罪等の誠意を見せず無関心を貫いたことは、Aの行為を黙認・容認したものと評価できる。さらに、その後の無断築造に対し、上告人ら全員が一体となって抗議を拒絶した事実に鑑みれば、賃借人側全体として将来にわたり義務を誠実に履行することを期待し得ない。したがって、賃借人全員について信頼関係は破壊されたといえる。
結論
上告人ら全員に対する本件賃貸借契約の即時解除は有効である。上告を棄却する。
実務上の射程
共同賃借人(または共同相続した賃借人)のうち一人による背信行為を理由に全員を解除する場合の論拠として有用である。特に、単なる一部の者の行為に留まらず、他の賃借人の『態度』や『一体性』を事実認定から拾い、賃借人側全体として信頼関係が破壊されたと構成する際の指針となる。
事件番号: 昭和23(オ)146 / 裁判年月日: 昭和25年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく建物に破壊や改造を施す行為は、特約や防空上の必要性等の正当な理由がない限り、賃貸借契約の継続を困難にする信頼関係の破壊をもたらす解除事由となり得る。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)に無断で本件家屋について複数の箇所(イ〜チ)の破壊又は改造を行った。…