賃貸借は当時者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、民法第五四一条所定の催告を要せず、賃貸借を将来に向つて解除することができるものと解すべきである。
賃貸借契約の当時者の一方に著しい不信行為があつた場合の契約の解除と催告の要否
民法541条,民法601条
判旨
賃貸借契約において、当事者の一方に信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為がある場合には、相手方は民法541条所定の催告を要せず、直ちに契約を将来に向かって解除することができる。
問題の所在(論点)
賃借人が善管注意義務(民法400条)や用法遵守義務(民法616条・594条1項)に著しく違反した場合、賃貸人は民法541条の規定にかかわらず、無催告で解除することができるか。
規範
賃貸借は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約である。したがって、賃借人に賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような「不信行為」があった場合には、賃貸人は催告なしに解除(無催告解除)が可能である。
重要事実
賃借人(上告人)の不在中、同居する家族が室内で野球をする等の放縦な行動により建具類を破壊した。さらに、建具を燃料として焼却し、水洗便所が故障しても放置してマンホールで用便するなど、不潔かつ乱暴に物件を使用した。賃貸人(被上告人)が期間を定めて修繕を求めたが、賃借人はこれに応じなかった。その結果、格子戸、障子、襖等の建具は全部なくなり、外壁も破損する事態に至った。
あてはめ
上告人の家族らによる多年にわたる建具の焼却、損壊、不潔な放置等の行為は、賃借人としての義務に著しく違反するものである。かかる行為は、賃貸人との間の信頼関係を裏切り、契約関係の継続を著しく困難ならしめる「不信行為」に該当すると評価される。このように信頼関係が破壊されている場合、改めて履行を催告することは無意味であり、民法541条の原則を修正し、催告なしの解除を認めるのが相当である。
結論
本件解除は有効である。信頼関係を破壊する不信行為がある以上、賃貸人は催告を要さず直ちに賃貸借を解除できる。
実務上の射程
賃貸借における「信頼関係破壊の法理」のリーディングケースである。答案上は、賃借人の義務違反(用法違反や転貸等)がある場合に、民法541条の原則を貫くと過酷または不合理な場面において、解除の有効性を判断する枠組みとして活用する。また、本判決は無催告解除を肯定する文脈だが、逆に「形式的な義務違反があっても信頼関係が破壊されていない限り解除できない」という解除制限の法理としても表裏一体で用いられる。
事件番号: 昭和40(オ)1133 / 裁判年月日: 昭和41年11月24日 / 結論: 棄却
家賃が一躍二六倍に値上げされた場合であつても、該値上額が第一審判決によつて正当と判断された後、賃借人が値上額の家賃の支払催告に応じなかつたときは、それを理由とする賃貸人の契約解除は有効である。