振出人甲が信用金庫の保証を得た約束手形を約束どおり現金と引換えでなければ交付できないと拒絶したが、手形ブローカー乙から融資する者に見せてくるから貸してくれといわれてだまされてとりあげられたときは、右手形の交付があつたものというべきである。
手形の騙取と手形の交付
手形法78条
判旨
手形振出人から受取人への手形交付が詐欺に基づく場合であっても、手形の振出および保証は有効に成立し、第三者が善意で譲り受けたときは詐欺による取消しを対抗できない。
問題の所在(論点)
手形が詐取された場合における手形振出および手形保証の効力、ならびに善意の第三者に対する詐取の対抗可否。
規範
手形行為は、意思表示の瑕疵(詐欺等)があったとしても、手形が受取人の手に渡り流通した以上は有効に成立する。かかる瑕疵は人的抗弁にすぎないため、手形債務者は、善意の第三者に対しては詐欺による取消しをもって対抗することができない。
重要事実
振出人Dは、受取人Eに現金1億円と引き換えに本件手形を交付する意思で、必要事項を記入・捺印して振り出した。上告人は、Dによる振出を保証する意思で手形保証を行った。しかし、実際にはEがDから本件手形を騙取したものであった。その後、被上告人がEから白地裏書によって本件手形の譲渡を受けたが、その際、被上告人はEによる騙取の事実を知らなかった。
あてはめ
本件では、振出人Dおよび保証人である上告人に手形行為をなす意思があり、現実に手形が受取人Eに交付されているため、手形の振出および保証は有効に成立している。Eによる騙取は意思表示の瑕疵にとどまり、取り消しうるにすぎない。被上告人は、Eが手形を騙取した事情を知らずに(善意で)譲渡を受けているため、Dおよび上告人は詐欺による取消しを被上告人に対抗することはできない。
結論
本件手形の振出および保証は有効であり、上告人は善意の被上告人に対し、詐取を理由に手形金の支払を拒むことはできない。
実務上の射程
手形行為の成立(交付欠缺との区別)および人的抗弁の切断に関する典型事例として機能する。詐欺により手形を交付した場合は、交付自体に意思があるため交付欠缺の問題ではなく、善意の第三者に対する対抗制限(手形法上の一般原則)の問題として処理すべきことを示している。
事件番号: 昭和23(オ)133 / 裁判年月日: 昭和25年2月10日 / 結論: 棄却
「見せ手形」として貸す約束で手形を振り出した場合であつても、この事由は悪意の手形取得者に対する人的抗弁事由となるに止まり、善意の手形取得者に対しては、振出人は手形上の義務を免かれることはできない。