一、約束手形に振出人として署名したが、これを流通におく前に盗取されまたは紛失した者の得た除権判決は、右振出署名者において、除権判決後その手形を取得した者に対し支払を拒絶しうる効力を有するにとどまり、除権判決前に手形を悪意または重大な過失なく取得し、振出署名者に対して振出人としての責任を追求しえた者の有する実質的権利までも消滅させる効力を有するものではない。 二、約束手形の振出署名者の申立にかかる除権判決により手形が無効となつた場合において、無効となつた手形を所持する実質的権利者は、除権判決前すでに手形上の権利を取得し、除権判決当時手形の適法な所持人であつたことを主張・立証することにより、その権利を行使することができるものと解するのが相当である。
一、約束手形の振出署名者の得た除権判決の効力 二、約束手形の振出署名者の申立にかかる除権判決により手形が無効になつた場合と除権判決前に手形上の権利を取得していた者の権利行使の方法
民訴法777条,民訴法778条,民訴法784条,民訴法785条,手形法17条,手形法38条,手形法39条,手形法77条,手形法78条1項
判旨
振出人が署名した手形を紛失・盗取された後に得た除権判決は、その確定前に手形を善意取得した者の実質的権利を消滅させるものではない。したがって、除権判決前に権利を取得した者は、自らが適法な所持人であったことを主張・立証すれば、手形が無効となった後でも振出人に対し権利を行使できる。
問題の所在(論点)
手形振出人が得た除権判決の確定前に、当該手形を善意取得(手形法16条2項)していた所持人の実質的権利は、除権判決によって消滅するか。また、手形が無効となった後、当該権利者はどのような要件で権利を行使できるか。
規範
振出人が手形を流通させる意思で署名した以上、たとえ紛失・盗難等により意思に反して流通した場合であっても、振出人は、所持人の悪意または重過失を立証しない限り責任を免れない(交付欠缺の抗弁の制限)。また、振出人による除権判決は、確定後の善意取得を阻止して二重払いの危険を免れるためのものであり、確定前に適法に権利を取得した者の実質的権利を消滅させる効力はない。そのため、除権判決前に手形を取得した実質的権利者は、除権判決により手形が形式的に無効となった後も、除権判決当時に適法な所持人であったことを主張・立証することで権利を行使できる。
重要事実
会社代表者Bが、金額等の手形要件を記入し振出人として署名した約束手形を携行中に紛失した。その後、第三者Gが当該手形を盗取し、Fを経て上告人がこれを割引取得した。上告人は裏書が連続した手形を所持していた。一方で、会社側は手形紛失を理由に公示催告の申立てを行い、除権判決を得てこれが確定した。上告人が手形金等の支払を求めたところ、会社側は除権判決による手形の無効を理由に支払を拒絶した。
あてはめ
Bは一定の手形要件を記入し署名していることから、特段の事情がない限り流通させる意思で手形を作成したといえる。上告人は、除権判決の確定前に裏書が連続した手形を取得しており、会社側から上告人の悪意・重過失の主張・立証がない以上、適法な権利者であると解される。除権判決は振出人の債務免責を目的とするにすぎず、確定前の権利取得を否定する必要はない。したがって、上告人が除権判決当時に適法な所持人であったことを立証すれば、手形自体が無効であっても実質的権利に基づき請求が可能である。原審が除権判決のみを理由に請求を排斥した点は、法令の解釈適用を誤っている。
結論
除権判決は確定前の実質的権利を消滅させない。所持人は、除権判決当時に適法な所持人であったことを主張・立証すれば、振出人に対し手形上の権利を行使できる。
実務上の射程
振出人が除権判決を得た場合の「除権判決の消極的効力」の限界を示す重要判例である。答案上は、手形の善意取得(16条2項)と除権判決の効力が競合する場面で、除権判決の趣旨(二重払いの防止)から射程を限定する論証に用いる。
事件番号: 昭和48(オ)574 / 裁判年月日: 昭和51年6月18日 / 結論: 破棄差戻
白地手形を喪失した者は、右手形について除権判決を得た場合でも、手形債務者に対し喪失手形と同一の内容の手形の再発行を請求する権利を有しない。